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シンパイは「悪者」なのか?...ピクサーが悩める親子に贈る『インサイド・ヘッド2』

Pixar Takes on Anxiety

2024年8月2日(金)15時04分
ダン・コイス(スレート誌記者、作家)

『インサイド・ヘッド2』に登場するハズカシ、シンパイ、イイナー、ダリィ

(左から)ハズカシ、シンパイ、イイナー、ダリィ ©2024 DISNEY/PIXAR. ALL RIGHTS RESERVED.

不安は自然な感情

前作同様、ピクサーは制作に当たり、子供のメンタルヘルスの専門家の助言を得た。今回は、特に10代の少女や若い女性のメンタルヘルスに詳しい心理学者のリサ・ダムーアが参加している。

「不安には健全なものと、不健全なものがある」と、ダムーアは言う。「不安はごく自然な感情であり、潜在的な脅威に警告を発して、身を守るのに役立つ。その意味では、不可欠な感情ともいえる」


ダムーアに言わせれば、『インサイド・ヘッド2』は10代の子供を持つ親たちへの「プレゼント」だ。制作に携わっている以上、彼女がこの映画について肯定的なことを言うのは当然だが、それを差し引いても、筆者(不安障害を抱える子供がいる)には同意できる部分が多い。

ライリーの重要な練習試合(そこでの出来によって正式に入部できるかどうかが決まる)で、シンパイは司令部の操作ボタンを矢継ぎ早に押して目を回してしまう。ライリーがパニック発作に陥るシーンは、経験者やその親にはつらいものだろう。

その発作は、ヨロコビとシンパイが肯定的な自己意識と否定的な自己意識の両方が混在する新しい自己意識を構築したとき、初めて解決する。

ライリーは良き友達にもなれば、冷たい友達にもなる。正直者だが、間違ったことをするときもある。『インサイド・ヘッド2』は、健全な大人に成長するということは、矛盾する自己認識の存在を受け入れることだと主張する。

大事なのは、自分という人間について単純なストーリーを当てはめ、それに反する感情や事実を押し殺すのではなく、欠点も含めたありのままの自分自身を受け入れることだ。落ち着きを取り戻したライリーは、「喜び」を選んでリンクへと戻っていく。

その後は、全ての感情が協力し合う。その中心にいるのはヨロコビだが、ライリーを落ち着かせるときなどはシンパイの出番だ。

「心理学者が不安を障害と見なすのは、実際の脅威のレベルと懸け離れた不安が見られるときだけだ」と、ダムーアは言う。そして、『インサイド・ヘッド2』を通じて、不安などのネガティブな感情も子供の健全な発達に重要な役割を果たすことを親たちが理解してくれれば、と語る。

米政府による10代のメンタルヘルス危機宣言は、10代に付き物の気持ちの浮き沈みについて、子供と親の両方を必要以上に不安にさせたと、ダムーアは指摘する。

不安は楽しいものではないかもしれない。だが、『インサイド・ヘッド2』が描くように、子供の成長に不可欠な要素でもあるのだ。

©2024 The Slate Group

INSIDE OUT 2
インサイド・ヘッド2
監督/ケルシー・マン
声の出演/エイミー・ポーラー、マヤ・ホーク
日本公開は8月1日

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