最新記事
映画

シンパイは「悪者」なのか?...ピクサーが悩める親子に贈る『インサイド・ヘッド2』

Pixar Takes on Anxiety

2024年8月2日(金)15時04分
ダン・コイス(スレート誌記者、作家)
『インサイド・ヘッド2』の「シンパイ」登場場面

高校生になったライリーの脳内でシンパイ(右端)の存在感が高まっていく ©2023 DISNEY/PIXAR. ALL RIGHTS RESERVED.

<高校生になった主人公ライリーの脳内で主導権争いを展開する「ヨロコビ」と「シンパイ」。極度の不安は10代の子供も大人も苦しめるが──(レビュー)>

アメリカでは今、10代の子供が抱えるメンタルヘルス問題が学校を圧倒し、家庭を動揺させている。米政府は「現代の公衆衛生上の危機」とまで言っている。

ピクサーの新作『インサイド・ヘッド2』は、この問題に真正面から取り組んだ。2015年の前作『インサイド・ヘッド』と同様に、サンフランシスコ郊外に住む少女ライリーの成長を、擬人化されたさまざまな感情たちの関係を通じて描く(以下ネタバレあり)。


ライリーの脳内の司令部では、「ヨロコビ」(声/エイミー・ポーラー)がリーダー的な役割を果たしてきたが、ライリーが高校に進学する本作では、不安をつかさどる「シンパイ」(声/マヤ・ホーク)が登場して、ヨロコビと主導権争いを展開する。

ただ、オレンジ色の大きな口を持つキャラクターとして描かれるシンパイは、決して悪者ではない。ライリーを不安に陥らせるのは、「彼女が将来の計画を立てるのを手伝うため」と主張する。「まだ見えない物事からライリーを守るのだ」と。

思春期に突入したライリーの脳内では、シンパイ以外にも、誰かを羨ましいと思う「イイナー」、クールに振る舞えないことを恥と感じる「ハズカシ」、無気力な「ダリィ」といった新しい感情が芽生え、司令部は混乱に陥る。

例えば、高校のアイスホッケー部のキャンプに参加したライリーは、ここでコーチや上級生に好印象を与えれば正式に入部できると考えて奮闘する。そんなライリーを動かすのはシンパイだ。

当初は不安な思いがプラスに働いた。ライリーは夜明けとともに起き出して、ホッケーの練習に励むのだ。それは、仲良しだった友達2人が別の高校に進むと知ったショックの裏返しでもある。「正式に入部できれば、独りぼっちにならない」と考えたのだ。

厳しいキャンプを乗り越えるには今までとは違う人間になる必要があると、シンパイは主張する。そして、抗議するヨロコビなどの感情を潜在意識の奥底に閉じ込め、「OK、ライリー。何もかも変えましょう」と言うのだ。

こうしてシンパイはライリーの日常を着実に乗っ取っていく。

シンパイは、ライリーに明日のことを想像させることが助けになると考えるが、そのせいでライリーは一晩中眠れない。プレー中に転んだらどうしよう。友達が自分よりうまいプレーをしたらどうしよう。先輩にダサい姿を見られたらどうしよう──。

こうした思いが「私、全然ダメだ」という、行きすぎた自己批判へとつながっていく。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 2
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 6
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    ただのニキビと「見分けるポイント」が...顔に「皮膚…
  • 10
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中