小児性愛者や人身売買業者が登場する『サウンド・オブ・フリーダム』は派手なQアノン映画か? まともな批評に値する作品ではない理由
A Controversial Crusade
主演のカビーゼルが陰謀説を喧伝したほか、保守系メディアの出資を受けていることも判明している ANGEL STUDIOSーSLATE
<児童人身売買の闇に切り込む一方で、陰謀説との関連が指摘され批判を浴びた問題作>
「この場所へ来るのは、魔法を見るためです」――ピンストライプのスーツで決めた女優ニコール・キッドマンが、そうつぶやいて向かった先は大手映画館チェーンAMCの素敵な劇場。新型コロナのパンデミックで閑古鳥の鳴いた劇場に客を呼び戻すべく、AMCが今も上映前に流しているCMの決めぜりふだ。
実際、私たちは魔法を見たのかもしれない。アメリカで7月4日の独立記念日に公開されるハリウッド映画と言えば、たいていは現実逃避の娯楽超大作。だが『サウンド・オブ・フリーダム』(監督アレハンドロ・モンテベルデ)は真逆のシリアスな作品なのに大ヒットし、初日だけで1400万ドル、最初の2週間ほどでなんと1億ドルも稼いだ。
この話題作は2018年に完成し、FOXが翌年の公開を予定していたが、ディズニーがFOXを買収した後、お蔵入りになっていたもの。公開前に主演俳優のジム・カビーゼルがQアノン流の陰謀論――児童人身売買の背後に大物政治家あり――を吹聴したことで物議を醸した、いわくつきの作品でもある。
カビーゼル扮するティム・バラードは国土安全保障省の元捜査官。ベースになっているのは、性的搾取を目的に誘拐され売られていく子供たちを救うためなら、違法捜査もいとわず奮闘したバラードの実話だ。
Qアノンの陰謀論に加担
作中に登場する小児性愛者や人身売買業者は、いかにも怪しげで変態っぽい(まるで100年前の映画だ)。一方で、少年少女で性欲を満たそうとする変態成人には大金持ちや権力者もいることをほのめかしてもいる(そういう人物を誘い出すために、主人公は小児性愛者向けの会員制高級クラブ経営者を装う)。
作中でQアノンやそれに類する陰謀論が語られることはない(映画の製作は一連の陰謀論が広まる前に始まっていた)。だがカビーゼルは本作の宣伝ツアーで、子供の身体の一部が国際的な闇市場で石油の1000倍の高値で売買されているのは事実だと、熱く語っていた。
現実のバラードも、毎年1万人もの少年少女が性的搾取の目的でアメリカに密輸されているという、何の裏付けもない数字を言いふらしていた。この数字を、ドナルド・トランプは2016年の大統領選で何度も何度も繰り返したものだ。そして大統領就任後のトランプは、バラードを国務省の人身売買諮問委員会の共同議長に据えている。
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