最新記事
坂本龍一

軽やかにジャンルを行き来し「音楽の未来」を体現した、坂本龍一の71年

COMPOSER FOR THE AGES

2023年4月19日(水)13時50分
ウィリアム・ロビン(音楽評論家)

21世紀に入ると、カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネスを含む新世代のコラボレーターに触発され、再び実験的な作品に取り組んだ。「彼は私に、メロディーを恐れるなと教えてくれた」とニコライは言う。「メロディーには実験的な可能性があるということも」

環境問題への意識も高く、09年の『アウト・オブ・ノイズ』には氷河の解ける音を収録。17年の『async』には11年の東日本大震災で水没し、調子の狂ったピアノで演奏した曲も収めた。

最後のアルバムとなった今年1月の『12』には、闘病のかたわら日記風につづった「スケッチ」のような楽曲を集めた。「ただ音のシャワーを浴びたくて」と、坂本は語っている。そうすれば「痛んだ体と心を少しでも癒やせる気がした」と。

昨年末には東京のNHK509スタジオで数々の名曲をピアノで自ら演奏し、コンサート風に仕立てた映像を世界に配信。これが「遺言」となった。

坂本は学生時代の72年に結婚して約10年後に離婚。82年にはミュージシャンの矢野顕子と再婚したが、こちらも06年に離婚した。最後のパートナーはマネジャーでもある空里香(そらのりか)だった。

坂本は日々の暮らしでも音にこだわった。18年のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは、長年ひいきにしてきたマンハッタンの日本食レストラン「嘉日」のシェフにメールで、「あなたの料理は大好きで、店も大好きだが、BGMは気に入らない」と伝えたというエピソードを明かしている。その後、彼は店で流すべき曲のリストを送ったそうだ。

美食には妙なる音楽。それだけが坂本の望みだった。

©2023 The New York Times Company

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米政府、海上停滞中のイラン産原油売却を容認 

ワールド

米国防総省、パランティアのAIを指揮統制システムに

ビジネス

米ユナイテッド航空 、秋まで運航便5%削減 中東情

ワールド

米、イラン戦争の目標達成に近づく=トランプ氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 8
    将来のアルツハイマー病を予言する「4種の先行疾患」…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 7
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 8
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中