最新記事
坂本龍一

坂本龍一と走り続けた40年──音楽業界の重鎮だけが見た天才の素顔

A DRAGON FLYING ABOVE

2023年4月13日(木)15時00分
近藤雅信(V4 Inc.社長、ワーナーミュージック元常務取締役)
坂本龍一と近藤雅信

「散開」ツアーの打ち上げで(83年、右から2人目が坂本、3人目が近藤) COURTESY OF MASANOBU KONDO

<「教授」と苦楽を共にした近藤雅信が見た坂本の茶目っ気・シビアな一面・音楽性の核とは>

イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が最初に所属したアルファレコードをはじめ、東芝EMI、ワーナーミュージック、ユニバーサルミュージックでプロデューサーや取締役などを歴任した近藤雅信。数十年にわたり坂本龍一の仕事を間近で見つめ続け、プライベートでの親交も深かった。近藤に「教授」との思い出を振り返ってもらった。

◇ ◇ ◇


教授には後に妻となる人を紹介してもらったり、食事に行ったり、お世話になりました。最後のやりとりは、いま僕がマネジメントしているミュージシャン岡村靖幸の音楽がSNSではやっていると伝えたときで、すごく喜んでいた。さかのぼると、初対面は1978年にアルファで編成のアシスタントを僕がやっていたとき。教授が東京・田町のオフィスに楽譜をコピーしに来て、「今度入社した近藤です」と挨拶しました。

翌年YMOの宣伝担当になり、取材によく立ち会ったし、メディアに配る宣材も作りました。よく覚えているのは教授に「近藤、窓際にいる仕事ができない社員を見て俺は頑張ろう、と思うのが会社なんだ」と、なぜか組織論を教わったこと(笑)。

物知りで、分からないことはすぐ教えてくれて本当に「教授」みたいな人でした。音でも言葉でも、メッセージを分かりやすく伝えるのがとてもうまい。スタジオの待ち時間によく読書をしていて、柄谷行人の本を抱えていたのを覚えています。

YMO初期はみんなセッションマンとして多忙な時期。スタジオでレコーディングの指示を出しながら、次の仕事の譜面を録音卓で書いていたという逸話も思い出します。

ソロ作で思い出深い曲は「ライオット・イン・ラゴス」。過熱するYMO人気のストレスから生まれた「アンチYMO」的な曲だけど、細野さん、幸宏さんが気に入りYMOの世界ツアーのオープニング曲に採用された。ニューヨーク公演ではこの曲で黒人の人たちが踊っていて「ダンスミュージックとして支持されている!」と記憶に残っています。

YMOは海外で例えば坂本九さんの「スキヤキ」のようにビルボードで1位になったわけではない。ただ最近、海外でもYMOの影響を受けたり、サンプリングしたりするミュージシャンが結構出てきていて、放射状に影響が広がっていると感じます。

その後僕が東芝EMIに移ると、YMOの再結成を制作部長として発案して、93年にアルバム『テクノドン』を担当しました。ビジネス的には成功でしたが、教授は「ちょっと(作品が)難しかったかな。ピンクフロイドとかのスタジアムロック感を入れてもよかったかも」と言っていた。伝えることに熱心な人だから、終わった後でも検証する。ミュージシャンとして珍しいと思いました。

対談
為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 セカンドキャリアの前に「考えるべき」こととは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ、石油パイプライン新設提案「可能性高い」とカ

ワールド

ガザ停戦合意をトランプ氏が支援、イスラエル首相が会

ワールド

プーチン氏「グローバリゼーションは時代遅れ」、新興

ビジネス

5月実質賃金2.9%減、5カ月連続 1年8カ月ぶり
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中