最新記事
坂本龍一

軽やかにジャンルを行き来し「音楽の未来」を体現した、坂本龍一の71年

COMPOSER FOR THE AGES

2023年4月19日(水)13時50分
ウィリアム・ロビン(音楽評論家)
坂本龍一

審査員をつとめた、第68回ベルリン国際映画祭の記者会見にて(2018年) Fabrizio Bensch-REUTERS

<「ただ音のシャワーを浴びたくて」。クラシックから最先端のテクノまで、心の奥底に届く深遠な音楽を紡いだ男の生涯について>

日本を代表する作曲家で、映画『ラストエンペラー』(1987年)や『シェルタリング・スカイ』(90年)、『レヴェナント 蘇えりし者』(2015年)などの音楽を担当した坂本龍一が3月28日に死去した。71歳だった。

本人のインスタグラムでは死因などを明かしていないが、ステージ4の癌と診断され、長く苦しい闘病生活を送っていたことは知られている。

未来的なテクノポップから古典的なオーケストラ曲、ビデオゲーム用の楽曲から繊細なピアノソロまで、坂本は自在にこなした。彼の音楽はキャッチーで感情を揺さぶる一方、身の回りにある自然な音も巧みに取り入れていた。

数々のソロアルバムを発表する一方、ジャンルを超えて多彩な音楽家とコラボし、その楽曲によりアカデミー賞とBAFTA(英映画・テレビ芸術アカデミー)賞、グラミー賞、ゴールデングローブ賞(2度)を受賞している。

1978年にはイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の結成に参加し、シンセサイザーやシーケンサーを駆使して「コンピューター・ゲーム」などのキャッチーなヒット曲を生み出し、日本音楽に対する西洋人の固定観念を覆した。

「好奇心。それが彼のテーマだ」。長らく坂本とコラボしてきたカールステン・ニコライは2021年の電話インタビューで、そう語っている。

「龍一はすごく早い時期から気付いていた。音楽の未来は必ずしも特定のジャンルにあるのではなく、異なるスタイル、普通じゃないスタイル間の対話にあるのではないかと」

坂本の名が世界に知られるようになったのは、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』(83年)でデヴィッド・ボウイと共演してからだ。大島監督は演技経験のない坂本に出演を依頼し、坂本は映画の音楽を担当することを条件に監督の依頼に応じたのだった。

シンセサイザーを駆使した『戦メリ』のテーマは坂本の代表曲の1つとなった。歌手デビッド・シルビアンはこの曲に詞を付け、「禁じられた色彩」のタイトルで切々と歌い上げた。ピアノやオーケストラ用にアレンジしたバージョンもある。

この成功を機に、坂本はベルナルド・ベルトルッチ監督の「東洋3部作」と呼ばれる『ラストエンペラー』、『シェルタリング・スカイ』、『リトル・ブッダ』の音楽を手がけることになった。

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き 副議長ら2人が利

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中