最新記事

言語

日本語教育機関をネットワークでつなぎ、さくらの花を世界中に咲かせる

2022年12月13日(火)18時00分
※国際交流基金設立50周年特設サイトより転載
日本語教育

国際交流基金ロンドン日本文化センターの協力のもと、ダートフォード・グラマースクールで行われた「Creativity Week Japanese Culture Days」というイベントの一環で、生徒たちが能の面作りを体験している様子。Photo:©Dartford Grammar School

<世界で日本語を教えている中核的な教育機関をつなぐ「JFにほんごネットワーク」。またの名を「さくらネットワーク」と呼ぶこの事業は、初・中・高等教育の別や国境も超えた連帯を生んでいます>

国際交流基金(JF)では海外の日本語教育機関と緊密に連携し、日本語教育の質を高め、より多くの人に日本語学習の場を提供することを目指しています。2007年度から進めている「JFにほんごネットワーク(通称・さくらネットワーク)」の構築はその一環です。

2022年3月末現在、加盟しているのは世界102か国・地域の357機関。各国・地域における日本語教育の発展を図るためには、現地の教育機関への支援は欠かせません。ネットワークで結ばれることにより、日本語専門家が派遣されていない地域にも、同じ国内や近隣国の機関などからサポートを受ける機会が生まれます。

さくらネットワークに加盟するには、しっかりした組織基盤があることや、十分な活動実績などが認定条件となります。加えて、日本語教育の輪を広げられるような地域社会への影響力を備えているかも問われます。認定されれば、教材の作成をはじめとする諸活動への助成という形でJFの支援が行われます。

カンボジア――日本文化の普及キャラバンで地方を回る

2007年に、さくらネットワークに加盟したのがカンボジアの王立プノンペン大学です。同大学で日本語学科の立ち上げに尽力したのは、外国語学部のロイ・レスミー副学部長。レスミー先生は最初は独学で、同大学に進学後は、青年海外協力隊員から単位取得のない課外の日本語コースを履修する形で日本語を習得し、卒業後に同大学の職員となりました。先生はその後、教授法なども学んで日本語教師となりましたが、その時に開講していた課外のコースでは、日本語を学ぶ学生はなかなか増えませんでした。

そこで先生は日本語学科の創設を学長に直談判し、その結果、2003年に同大学には日本語学科が創設され、2年後には本格的な授業がスタート。2005年には85人の3クラスだったのが、現在では650人の24クラスになりました。「卒業生にはカンボジア外務省に就職し、駐日カンボジア大使館へ赴任した人もいます」と、レスミー先生は話します。

japanfoundation50_nw1207-2.jpg

2013年、王立プノンペン大学で3年生を対象とした日本事情の授業を行うレスミー先生。

さくらネットワークへの加盟は、同大学に大きなメリットをもたらしました。さくらネットワークの事業として、2020年2月には同大学の主催で「さくら日本語・日本文化普及キャラバン」を実施(在カンボジア日本大使館が共催)。同大学の卒業生を含む社会人、在留邦人などがチームを組んで地方を回り、日本語を教えたり日本文化を紹介したりしました。その意義を、レスミー先生はこう語ります。「高校生以下の世代は、キャラバンでやってきた同大学の卒業生の話を聞くことで、将来、日本語を勉強したら留学もできるんだ、就職もできるんだという未来が描けるようになるのです。日本語教育機関のない地方の若い世代とつながれたことは大きいです」

japanfoundation50_nw1207-3.jpg

ロイ・レスミー(Loch Leaksmy)先生。1997年、王立プノンペン大学を卒業。同大学の日本語学科の設立者です。2005年、昭和女子大学で修士号(日本語教育学)取得、2016年に同大学文学部言語コミュニケーション学博士課程研究修了。現在は王立プノンペン大学外国語学部副学部長。


【お知らせ】
国際交流基金は11月下旬、2021年度「海外日本語教育機関調査」結果を公表した。141の国・地域において日本語教育が実施されていることを確認。日本語教育機関の数については、コロナ禍においても学校教育機関でほぼ横ばい、学校教育以外の機関で減少していることがわかった。詳細はこちら。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

バイデン氏のガザ危機対応、民主党有権者の約半数が「

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中