最新記事

言語

日本語教育機関をネットワークでつなぎ、さくらの花を世界中に咲かせる

2022年12月13日(火)18時00分
※国際交流基金設立50周年特設サイトより転載

イギリス――「世界市民」を育てるため日本語も選択肢に

一方、2016年に中等教育機関としてさくらネットワークに加盟したのが、イギリスにあるダートフォード・グラマースクール。創立は1576年。地域の優秀な生徒が集まる学校です。同校の特徴は、「世界市民」の育成をミッションに掲げ、言語教育に力を入れている点です。世界共通の大学入学資格および成績証明書を与えるプログラム「IB(International Baccalaureate)」の理念に基づいてカリキュラムを提供している学校でもあります。IBには母語話者/非母語話者向けの日本語の試験が含まれます。

japanfoundation50_nw1207-4.jpg

ダートフォード・グラマースクールはロンドンから南東に約25㎞、ケント州にある公立校です。Photo:©Dartford Grammar School

同校が日本語教育を始めたのは1995年のこと。中等教育修了一般資格である「GCSE(General Certificate of Secondary Education)」を得るための試験を、ふたつの外国語(日本語か中国語、そして仏・独・西・ラテン語のどれか)で受けることを課しており、その理由を、同校で日本語教育を担当するケイティ・シンプソン先生はこう話します。「当校の理念に根付くのは、コミュニケーションの力と異文化への敬意です。平和な世界をつくる国際市民となるには、多様性をもつことが大事。ですから言語教育を重視しますし、複雑な意味をもつ漢字や、日本語の論理的な文法構造を学ぶことは、生徒にとってためになります」

日本語の授業は7年生(12歳)から13年生(18歳)まで続き、授業は週3回あります。9月の7年生新学年時点で日本語か中国語のクラスに学校側で生徒を振り分け、その年のクリスマスまでには、ひらがなとカタカナをマスターします。また毎年、和歌山県のふたつの高校と交換留学も行っています。ダートフォード・グラマースクールの生徒たちは和歌山で10日間ほどホームステイをします。日英両校とも、生徒たちは互いに相手校で授業を受けたり、部活動に参加したり、近郊に旅行したりとプログラムを楽しんでいます。

japanfoundation50_nw1207-5.jpg

ダートフォード・グラマースクールでは、和歌山県のNPO法人日本国際交流振興会和歌山支部・和歌山国際交流振興会の協力のもと、向陽高等学校及び開智中学校・高等学校と交換留学プログラムを実施しています。写真は2018年に開智中学校・高等学校を訪れた際の歓迎セレモニーの模様。Photo:© Dartford Grammar School

「さくらネットワークに加盟したことで、さまざまな可能性が開けました。他の教育機関と幅広く交流できるようになり、学者や研究者ともつながることができました」とシンプソン先生は語ります。ジュリアン・メトカーフ校長はこう述べます。「西洋と東洋の言語を並行して学ぶというのはとてもユニークな経験です。より広い視野をもって、自校の生徒たちだけでなく地元の小学校や中学校に対しても、日本や日本語について紹介する活動をこれからも提供していきたいです」

japanfoundation50_nw1207-6.jpg

ダートフォード・グラマースクールのジュリアン・メトカーフ校長。「優秀な日本語教師をいつも探しています。日本語のクラスはどんどん充実させていきたいです」と語ります。Photo:©Dartford Grammar School

japanfoundation50_nw1207-7.jpg

ダートフォード・グラマースクールで日本語のクラスを担当するケイティ・シンプソン先生。かつて長野と東京に住んでいたことがあるそうです。Photo:©Dartford Grammar School

さくらネットワークには取り組むべき課題がいくつかあります。そのうちのひとつは、アフリカの加盟機関を増やすこと。JFは、ケニアをはじめアフリカ各地で日本語教育に携わる先生方と連携・協力し、日本語教育のネットワーク作りを支援しています。2019年には「第1回アフリカ日本語教育会議」がエチオピアで開催され、アフリカ全土13か国から70名が参加しました。また、中米カリブ地域の広域ネットワーク構築も進行中です。JFメキシコ日本文化センターが中心となり、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、ドミニカ共和国など各国の日本語教師が集まるセミナーやシンポジウム、オンライン会議が継続して行われています。

世界中にさくらの花を咲かせるべく、種まきの努力は続きます。

※当記事は「国際交流基金設立50周年特設サイト」からの転載です。
japanfoundation50_logo200.png

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中