最新記事

俳優

美しさに「味」が加わった稀有な才能...クリス・パインは第2のレッドフォードだ

The New Robert Redford

2022年5月12日(木)18時45分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
クリス・パイン

パインの存在感は同世代の俳優たちとは一線を画す(左の写真は『ワンダーウーマン』、右は『スター・トレック』出演時のもの) PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. PHOTOS BY WARNER BROS. PICTURES, RB/BAUER-GRIFFIN/GC IMAGES, AND PARAMOUNT PICTURES.ーSLATE

<俳優クリス・パインの魅力は少年っぽい情熱と陰鬱な知性。ロバート・レッドフォードを彷彿させる別次元の逸材>

スパイ映画『オールド・ナイブズ』(アマゾンプライム・ビデオで配信中)でタンディ・ニュートンが演じるCIAの元女性エージェントのシリアは、人も羨む立ち位置にいる。

今は一般人として、夫と子供と何不自由なく暮らすシリアだが、夕暮れ時、ほとんど客のいない海辺の高級レストランで、クリス・パイン演じる元恋人のヘンリーとテーブルを囲む。ヘンリーは今もシリアを熱愛している。2人はグラスワインを注文する。シリアは白、ヘンリーは赤を。

数々の回想シーンを挟んでディナーが中盤に差し掛かる頃には、テーブルの上に5つのグラスが並んでいる。ヘンリーの前に3つ、シリアの前には2つ。2人がゆっくりとディナーを楽しんでいたことを感じさせる描写だ。そう、このディナーは映画の終わりまで続くのだ。

最近のアクション映画としては、本作はスピード感に少し欠けるし、古風でもある。同じ場所で話が進むし、派手なアクションシーンより対話とキャラクターに重きを置いている。この手の作品は昔のアメリカ映画にはよくあった。ほどほどの予算で作られた大人向けのスリラーで、主役は超美形のスター俳優2人。お上品なベッドシーンを挟みつつ、事件の謎や外交問題の類いを解決していく。

本作を見終わって、まず脳裏に浮かんだのは1975年の映画『コンドル』だ。ロバート・レッドフォード演じる主人公もCIAの職員で、フェイ・ダナウェイ演じるヒロインとの恋はやや無理のある展開ながら、作中で大きなウエートを占めている。

そして、ふと思った。パインは21世紀のレッドフォードなのではないか――。となると、レッドフォードの時代とはまるで状況の異なる今の映画界で、パインが自らの才能や魅力に合った作品を探すのに苦労しているのも納得だ。

ハードボイルドは駄目?

例えばこの春、アメリカで公開された『ザ・コントラクター』では、彼の魅力は十分に発揮されたとは言えない。パインが演じたのは帰還兵ジェームズ。家族を養うために民間軍事会社に就職するが、陰謀に巻き込まれてしまう。

だが、パインの個性とジェイソン・ボーン的なキャラクターとの相性はいまいちだ。無表情で禁欲的で腕の立つ現代的なアクションヒーローなら、成り手はいくらもいるだろう。だが『オールド・ナイブズ』のパインのように、美しく盛り付けられた前菜をおいしそうに食べたり、各国語を巧みに操る様子を演じたり、空のワイングラスが並ぶテーブルの向こうから元恋人の目を意味ありげに見つめたりすることができる俳優は稀有だ。

220517p54_CPN_02.jpg

『オールド・ナイブズ』でヘンリーとシリアのディナーのシーンはキャラクターの存在感が際立つ STEFANIA ROSINI/AMAZON STUDIOSーSLATE

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日米閣僚が会談、関税合意踏まえた経済連携強化を再確

ビジネス

インフレは依然高すぎる、政策変更は差し迫らず=米ク

ワールド

イラン空域制圧へ作戦順調、米が新指導者候補を複数検

ビジネス

米2月雇用、9.2万人減で予想外のマイナス 失業率
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    アルツハイマーを予防する「特効薬」の正体とは? …
  • 10
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中