最新記事

映画

実写版『ムーラン』の迷走に学ぶ中国ビジネスの難しさ

Disney’s ‘Mulan’ Disaster

2020年10月10日(土)11時30分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌シニアエディター)

自国政府から中国での事業に待ったをかけられた企業も多い。インド政府はカシミール地方で中国との軍事衝突を受け、あらゆる領域で中国との関係断絶を進めている。米政府は国内での事業を禁止する中国企業を毎週のように追加しており、取引のある米企業に影響が及んでいる。

こんなとき、多くの企業は取りあえず様子を見て、嵐が過ぎ去るのを待とうと考えがちだ。なにしろ中国市場は巨大で、そう簡単に諦めるわけにはいかない。それにこれまでにも、一時は中国と激しく対立したが、数年後に「仲直り」した国があった。

例えばノルウェーは、2010年にノーベル賞委員会が中国の反体制活動家にノーベル平和賞を授与したのを機に、対中関係が悪化していたが、2016年に関係を正常化した。だから企業には、今は厳しい状況でも、いずれ中国の政治の振り子がリベラルな方向に戻ってくるという期待がある。

「明日の中国」の出方は不明

だが、その振り子は強権的な方向に激しく振り切れ、鎖ごと引きちぎれてしまった。習が権力の座にある限り、政治的パラノイアと排外主義は大きくなる一方だろう。アメリカの対中強硬路線も、トランプが11月の大統領選に勝とうが負けようが続くだろう。中国専門家のビル・ビショップはニュースレター「シノシズム」で、「今後数年を考えると、米中関係は今が最高だ」と述べている。

もちろん、中国政府の要求に徹底的に従うという戦略もあり得る。ホテルチェーンのマリオット・インターナショナルはこの戦略を取ってきた。航空各社も台湾の表記をめぐり、中国政府の要求に応じる変更をしてきた。

だが、こうした態度はアメリカ国内で大きな代償を生じさせる可能性がある。中国の要求をのんだ企業は議会公聴会に呼び出され、公共事業の入札から締め出され、メディアで猛攻撃を受けるだろう。

そうしたリスクに目をつぶって中国市場を目指しても、いずれ現実との巨大なギャップに慌てることになる。「自分の業界は米中摩擦と無縁だと思っていると、その自信に足をすくわれる」と、ある中国アナリストは語る。

いまだに13億人市場に甘い夢を見ている企業は、今すぐ目を覚ますべきだ。たとえ今日の中国に対処できても、明日の中国がどう出るかは全く分からないのだから。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2020年10月6日号掲載>

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUがウクライナ産の小麦と砂糖に輸入枠、最大で80

ワールド

サウジ、ガザ恒久停戦を優先と外相 イスラエルとの関

ワールド

関税に関する書簡、米東部時間7日正午から送付開始=

ビジネス

エールフランスKLM、スカンジナビア航空への出資率
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中