最新記事

映画

『オフィシャル・シークレット』イラク戦争直前に米英の嘘をリークした元諜報機関員が語る「真実」

A Timely Whistleblower Story

2020年8月28日(金)17時30分
サミュエル・スペンサー

maglifestyle200828_movie2.jpg

ガン(キーラ・ナイトレイ)とブライト(マット・スミス)の告発の行方は NICK WALL ©OFFICIAL SECRETS HOLDINGS, LLC

映画の重要なシーンの1つで、ある単純なミスから、ガンとブライトは危機に直面する。オブザーバー紙の編集アシスタントがメモを転記した際に、アメリカ式のつづりをイギリス式に書いてしまったのだ。米保守系政治ニュースサイトのドラッジ・リポートはこれをネタに、メモの信憑性を攻撃する。映画は事実と少々異なる点もあるが、「残念ながらかなり近い」と、ブライトは言う。「その気の毒な女性は実在する。入社してまだ2週間だったから、彼女にとって本当に恐ろしい出来事だった。今では『フェイクニュース』と呼ばれるものとして、ドラッジ・リポートから攻撃されたことも事実だ」

もっとも、映画ほど劇的な展開ではなかった。映画では、ブライトと編集長が編集室にいるときにこのミスが発覚し、国外メディアのインタビュー取材が相次いで中止となる。しかし実際は、「基本的に電話でのやりとりだった。(記事が掲載された)日曜版の編集部は、日曜日と月曜日が休みだった」

ドラマを盛り上げるために小さな装飾はあるが、『オフィシャル・シークレット』は「いかなる形でも真実を勝手に書き換えて」はいないと、ブライトは語る。

「ギャビンは本当に大変だったと思う」と、ガンは言う。「普通の表現方法とは違っていたから。彼が私に話を聞いていて、最初にこれはかなり難しいと気が付いたのは、多くのことが私の頭の中だけにあったと分かったとき。私が考えて、私が感じたことばかりだった。彼は『どうすればこれを映像にできるんだ?』と考え続けた」

法廷で語れなかったこと

「問題のメールを私たちが読んで議論するシーンは、実際にはなかった。(実際は)私はメールを見てすぐに思ったの。『何てこと、ひど過ぎる』。ギャビンが(話し合いのシーンを)追加したのは、私の思考プロセスを共有するためでしょう」

クライマックスの演出も難題だった。ガンは徹底的に追い込まれながら、結局、起訴は何の前触れもなく取り下げられた。

「フィクションとして描くなら、最後の法廷の場面はもっと長くなるはずだ。でも、現実の意外なほどあっけない結末にも、みぞおちにこぶしを食らうような重みがある」と、フッドは言う。「ただし、彼女とベンは、正式な記録が残る場で自分たちの無実を証明する機会を与えられなかった。ここから先はジャーナリズムの問題だ。起訴を取り下げた本当の理由を法務長官と検察幹部に直接、問いただすつもりがあるのか、と」

OFFICIAL SECRETS
『オフィシャル・シークレット』
監督╱ギャビン・フッド
主演╱キーラ・ナイトレイ、マット・スミス
日本公開は8月28日

<本誌2020年9月1日号掲載>

【関連記事】イラク戦争はどうアメリカを弱らせたか
【関連記事】戦争映画『ハート・ロッカー』の幻想

【話題の記事】
12歳の少年が6歳の妹をレイプ「ゲームと同じにしたかった」
コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず
異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる
介護施設で寝たきりの女性を妊娠させた看護師の男を逮捕

20200901issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年9月1日号(8月25日発売)は「コロナと脱グローバル化 11の予測」特集。人と物の往来が止まり、このまま世界は閉じるのか――。11人の識者が占うグローバリズムの未来。デービッド・アトキンソン/細谷雄一/ウィリアム・ジェーンウェイ/河野真太郎...他

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井物産、4─12月期の純利益6.2%減 JA三井

ビジネス

マスク氏のスペースXがxAI買収、宇宙・AI統合 

ビジネス

米テスラ、SUV「モデルY」に新タイプ投入 4万1

ビジネス

デンソー、通期純利益予想を下方修正 米関税や部材高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 7
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中