最新記事

米軍事

イラク戦争はどうアメリカを弱らせたか

オバマ米大統領はイラクでの戦闘終結宣言をしたが、アメリカが払った目に見えない代償はこんなにある

2010年9月1日(水)17時37分
アン・アップルボム(ジャーナリスト)

まだ終わらない アメリカが失ったのは兵士だけではない(イラクで犠牲となった米兵の棺、2006年) Reuters

 8月31日、バラク・オバマ米大統領はホワイトハウスの執務室から国民に向けてテレビ演説を行い、「イラクでの戦闘任務終了」を宣言。イラク民主主義の安定のためにアメリカは今後も重要な役割を担うとしつつ、2011年末の米軍のイラク完全撤退に改めて言及した。

 一方で、今後はアメリカ経済の再建を最優先課題としていくことを明言した。

 オバマのこうしたコメントに文句を付けるつもりはない。それでも、03年3月から約7年半続いたイラク戦争がアメリカの社会や外交に与えた影響についてもう少し時間を割いてほしかったと思う。私はイラク侵攻を支持したし、米軍の増派は成功だったと考えている。イラクの民主主義は、中東に画期的な変化をもたらす力になりうるとも信じている。しかし、たとえ暴力行為が減ったとしても、米軍が帰国できたとしても、私たちが勝利のために払った代償は想像をはるかに超えるほど大きなものだった。

 それはイラクで実際に流れた血や、実際に費やされた金だけではない。数え上げたり分類するのが難しい代償もある。例えばこういったものだ。

■アメリカに対する世界の評価

 戦闘の勝利は迅速にもたらされたが、その後の占領政策はめちゃくちゃだった。武装勢力の反乱というアメリカ政府にとって予想外の展開が起こり、予想どおり米国防総省と国務省はいさかいを起こし、駐留兵士には指示が行き届かず、彼らは現地の言葉を話すこともできなかった。イラクをはじめとするあらゆる国で、「アメリカは無能」という印象が持たれた。アブグレイブ刑務所の捕虜虐待問題が明るみになると、「愚か」「残忍」といった印象も生まれた。2年前の世論調査では、多くの親米諸国がイラクの「侵攻」そのものではなく「管理ミス」が、アメリカの同盟国にとって最大の障害だと感じていた。
 
■他国と連携する力

 アメリカは、同盟を組織する力も失った。イラク参戦によってイギリスのトニー・ブレア首相は評判を落とし、スペインのホセ・マリア・アスナール政権は総選挙で敗れて退陣した。当初の開戦支持の声がおさまると、イタリアやポーランドといったアメリカ人気の高い国でもイラク占領が支持されていないことがわかってきた。イラク戦争に加担し、それによって経済的、外交的利益を得た国はほとんどなかったし、アメリカから特別待遇を受けた国もなかった。2000人の兵士を派遣したグルジアでさえ、08年にロシアと軍事衝突を起こした際にアメリカからの助けをまったく受けられなかった。

 イラク戦争の時のように、アメリカとともに戦ってくれる「有志連合」を形成するのは、今後さらに難しくなるだろう。実際、アフガニスタンに対する世界の関心が高まらず、イランに対して団結して圧力をかけることが難しいのは、「イラク」が理由の1つになっている。

■中東における影響力

 中東におけるアメリカの影響力もダメージを受けた。我々の中東政策がこれまでもうまくいっていないことは認めるが、イラク国内の混乱がイランを強硬にしているのは明らかだ。イスラエルとパレスチナの紛争にもプラスの影響は与えていない。イラク問題はここ数年の原油価格高騰の一因ともなり(イラク戦争は「石油戦争」と言われたことを覚えているだろうか?)、結果的に、9・11テロの実行犯19人中15を生み出した国サウジアラビアの影響力も強めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「今夜文明滅びる恐れ」、イラン交渉期限迫

ワールド

与党劣勢のハンガリー議会選、EUが「干渉」=米副大

ビジネス

イラン戦争でスタグフレーション懸念、FRB難しい舵

ワールド

トランプ氏発言が欧州安保の動き誘発、統合軍創設も視
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中