最新記事

BOOKS

『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』は何の本か?

2020年8月3日(月)15時55分
樋口耕太郎

一人一人と対話すること、私の解釈が多くの人の心に届くこと

さて、問題は、証明不能な真実をいかにして明らかにしていくか、ということなのだが、トランスパーソナル心理学の分野で、世界的に著名なケン・ウィルバーは、この問いに明確に回答している。


 もし、私の心の中で何かが起こっているか知りたければ、それがわかる一つのかつ唯一の方法があります。彼(例えば科学者)は、私に話しかけなければならないのです。彼であれ他の誰であれ、私が実際に何を考えているか、尋ね、話しかけ、私とコミュニケーションすることなしに知ることができる方法は他には絶対にないのです。そしてもし私が教えたくなければ、けっして私の個人的思考の実際の細部はわからない。(略)内実は、話しかけることによってのみわかる。言い換えれば、独白(モノローグ)ではなく対話(ダイアローグ)に携わらなければならないわけです。(ケン・ウィルバー『万物の歴史』大野純一訳 p132)

私たちの心の中の真実を明らかにする方法は、たった一つしかない。対話である。つまり、人の関心に対して関心を注ぐことによってのみ明らかになる。

そして、もう一つ重要なことは、対話によってたどりつく真実は、解釈することができるだけだということである。これが、人間の内側の真実に対する唯一の科学的姿勢である(ちなみにこれは、私の意見ではなく、著名な発達心理学者たちの見解である)。ここまで真実の追求範囲を広げた分野の一つが、たとえば深層心理学である(だから、ハード・サイエンティストは、この分野を「非科学的」だと考える)。

そこには、当然ながら、良い解釈と悪い解釈がある。ランダムな解釈が真実であるはずがない。そして、その解釈が真実を表現しているかどうか、その根拠は何か、という問いへの答え(のひとつ)が共感なのだ。

「子供の成長にとって、最も好ましい環境は、自分を愛する母親に育てられること」、心理科学者のエーリッヒ・フロムは語るが、この「解釈」を数量的に証明することはできない(統計を使う手法はある程度有効だが、あくまで間接的な状況証拠に過ぎない)。しかし、私たちの多くが、この言葉に触れて、真実だと実感・共感するのだ。......沖縄方言でいう「ウチアタイ」である。

心理学者のブレネー・ブラウンは、人間にとって決定的に大切なことが、自分を愛することだという。彼女の分析は膨大な対話に裏付けられていて、ある意味数量的に表現することも可能だが、やはり、彼女の言葉が重みを持つのは、その言葉に共感する無数の人たちが現実に存在するからだ。

私が大切にしていることが、膨大な時間をかけて一人一人と対話すること、私の解釈が多くの人の心に届いている(共感)こと、である理由はここにある。人間の心の中の真実は、一人一人の人間の関心の中にある。どのみち、この方法によってしか、知ることができないものなのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任

ビジネス

アングル:バフェット後も文化維持できるか、バークシ

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中