最新記事

インタビュー

「性欲はなぜある?」が揺るがす常識 現代美術家・長谷川愛が示す「未来」

2019年8月14日(水)16時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

Torus 写真:西田香織


見た者はざわつきとともに考えずにはいられなくなる。そんな作品を発表し続けてきた現代美術家・長谷川愛さん。インタビュー前編では最新作"Alt-Bias Gun"や創作の原点を聞いた。後編では長谷川さんを突き動かすものを探る。

潜在的な欲望、倫理的な問題を引っ張り出したい

自分が抱える悩みや問題意識が、アートプロジェクトの出発点です。実現できるかどうかはさておき、解決法や選択肢を想像し、どうしたらそれが実現するかを考えていくのです。

たとえば「子どもがほしいか?」という問いがあるとします。「イエス」「ノー」「代理母になる」「養子を取る」といった答えが浮かぶと思います。でも、自分の考えはそのどれにもあてはまらないという人たちもいます。私自身がそうでした。

ならば、ほかにどんな選択肢がありえるのか新しい技術で示せたら。そこからプロジェクト『私はイルカを生みたい...』が生まれました。

『私はイルカを生みたい...』"このプロジェクトは、潜在的食物不足とほぼ70億人の人口の中、これ以上人間を増やすのではなく、絶滅の危機にある種(たとえばサメ、マグロ、イルカ等)を代理出産することを提案しています。子どもを産みたいという欲求と美味しいものが食べたいという欲求を満たすために、食べ物として動物を出産してみてはどうか?という議論を提示し、そして如何に可能にするかという方法も示します。" (Ai Hasegawaより)


答えが明らかにみえる問いにも、自分の身体や社会の中に眠っている潜在的な欲望、倫理的な問題など、いろいろなものが隠されている。それを表に引っ張り出して世に問いたいという欲求が強いんです。

その一つが、プロジェクト『極限環境ラブホテル 木星ルーム』。自分の性欲が煩わしくて「そもそも性欲ってなんのためにあるんだっけ?」という問いから生まれました。

性欲は子孫を残すため、などとされていますが、今はセックスしなくても体外受精などで子供を作れるようになりました。逆に性欲から体が触れ合うと性病が感染して不妊になる場合もあります。

そう考えると、性欲のある肉体と現在の環境・社会はマッチしていないとも言えます。

もっといえば、私たちの身体はもう「古い」のです。

人を早く進化させるにはどうしたらいいのか?

エピジェネティクス(DNA配列を編集せずとも遺伝子発現を制御・伝達するシステムとその学術分野)の研究も盛んになる中、遺伝子を触るより前に、人間の身体はどんな環境なら遺伝的に変化しうるのかを探ってもいいのでは? その問いをもとに、木星並みの重力という極限の環境に人を置き、どんな反応が出るか観察しました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、大型減税法案可決をアピール アイオワ州

ワールド

IMF、スリランカ向け金融支援の4回目審査を承認

ビジネス

ドイツ銀、グローバル投資銀行部門で助言担当幹部の役

ビジネス

ドイツ自動車対米輸出、4・5両月とも減少 トランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中