最新記事

BOOKS

日本人の美徳は罪悪感と報恩精神──とドイツ在住ライター

2018年10月31日(水)19時00分
印南敦史(作家、書評家)

とはいえ、著者ならではの視点も当然あり、そこがフックになってもいる。特筆すべきは「ゆとり世代のひとり」として、オタクカルチャーを当然のものとして受け入れてきた世代感覚だ。そこには、他の世代からは見えにくいリアリティが投影されているのである。


 わたしはアニメとマンガが大好きだし、「モーニング娘。'18」などのアイドルが所属している「ハロー!プロジェクト」も好きだ。だから、多くの外国人が日本のポップカルチャーに興味を持ってくれること自体はとてもうれしい。だが誤解しないでほしいのは、「オタクは海外でもあくまでオタクである」ということだ。
 わたしのパートナーや一部の友人もアニメが好きなのだが、それを積極的に公言はしない。ドイツには「アニメは子どもが見るもの」というイメージがあるから、アニメ好きなのは恥ずかしいことなのだ。彼が本屋でマンガを買ったとき、透けるビニール袋ではなくわざわざ布の袋を買っていたし、わたしがバスでマンガを読んでると彼はちょっとイヤな顔をする。(30~31ページより)


 そしてそれは、アイドルでも同じことだ。ドイツでは友人同士が集まるとスマホやタブレットで好きな音楽を聞かせあうという、謎のコミュニケーション方法がある。そのとき「日本の音楽を紹介して」と言われることが多いので、わたしはアイドルを知ってもらおうと、何度かアイドルの動画を見せた。だが率直に言うと、ドイツ人からの評判はすこぶる悪い。
「未成年が下着で踊っている」「義務教育を受ける年齢なのに親はなにをやっているんだ」なんて言われたし、「いい年した大人が児童ポルノみたいなビデオを見て喜んでいるのか......」と引かれたこともある。それでいまでは大人しく、宇多田ヒカルを流すことにしている。(31~32ページより)

ここで注目すべきは、上記のような現実に対する著者の主張だ。「わたし自身二次元にどっぷりハマっているし、これからもアイドルを応援するつもりだ」と認めながらも、「あまり『海外でも人気!』と言いすぎると、現実と差ができてしまうんじゃないかと心配になる」と冷静な視点で目の前の状況を捉えているのだ。

至極まっとうな考え方である。これ以前に著者は、「日本スゴイ」が蔓延する日本のテレビ番組への違和感をも明らかにしているのだが、つまりそれは、「この国はこう」という発想が行き過ぎ、しかもそこに客観性が欠如していることの証拠でもあるのだ。焦点が当たりにくいその部分をクローズアップしてみせたというだけでも、著者の主張には大きな意義がある。

そしてもうひとつ興味深かったのが、「日本人の美徳」について触れた項だ。著者はもともと、日本の「空気を読む」という文化に馴染めなかったという。しかしドイツで暮らすようになってから、いろいろな場面で「いまの自分の行動、日本人っぽいな」と感じることがあった。ただ、そう思う理由がわからず、ずっとモヤモヤしていたのだそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中