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レゴ

日本でただ1人、レゴ社認定プロの知られざるメリットと悩み

2018年9月11日(火)16時10分
森田優介(本誌記者)

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2016年に制作した「未来の名古屋駅」。ジェイアール名古屋タカシマヤで開催されたレゴフェスティバルで展示された Courtesy of Jumpei Mitsui

食事時以外はずっと地下の「工房」にこもって制作

そんな三井は普段、どんな生活を送っているのだろうか。

依頼主との打ち合わせで外出したり、ワークショップを開催したりすることもあるが、食事時以外はずっと、陽の当らない地下1階の「工房」にこもって制作するという日も珍しくない。当然ながら、レゴが好きでなければやれない仕事だ(実際、それはまったく苦痛ではなく、むしろ制作に充てる時間がもっと欲しいくらいだという)。

多忙ゆえ、昔のようにレゴファンの集まりに顔を出す機会も減ったという。ただ、今はSNSがある。三井もツイッター(@Jumpei_Mitsui)で、他のファンたちとの交流を楽しんでいる。

また、認定プロビルダーとしては年に1度、レゴ社から招待されて集まり、他のプロビルダーたちと交流するという。だから、他の15人のことはよく知っており、本誌のムック「レゴのすべて」を献本したときも、「レゴ認定プロビルダーも3人紹介されていました」とツイートしてくれた。

オリジナル作品を作る時間をなかなか取れなかった

それにしても、レゴビルダーとは不思議な職業だ。取材時、三井のオフィスには彼の作品が1点もなかった。

依頼されて作った作品は、ずっと展示されていたり、依頼主の元で保管されていたり――。まれに戻ってくることがあっても、大きい作品だとオフィスに置いておけないため、神奈川・新百合ヶ丘にある特別養護老人ホーム「ラスール麻生」内のギャラリーに展示してもらったりしているという。つまり、自分の手元にはないが、世界のどこかで作品が生き続ける。

「例えば最近、ラスベガスで開催される建機のイベントで展示したいと言われ、ショベルカーをレゴで作った。現在はその建機メーカーのショベルカー工場近くの空港で、ディスプレイとして使ってもらっている」

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Courtesy of Jumpei Mitsui

また、思い入れのある作品はたくさんあるが、その1つに高さ3メートル、重量は1トンを超える巨大な「パックマン」があるという。

「『ピクセル』という映画で街中をパックマンが走り回るシーンがあり、その映画のプロモーションで、大きいパックマンを作って新宿の道中に置くという企画だった。今はアメリカに渡って、アメリカのパックマンをテーマにしたエンターテインメント施設に置かれていると聞いている」

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©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

ただ、順風満帆に見える三井にも悩みはある。起業以来ずっと走り続けてきて、依頼作品でなく、自分のオリジナル作品を作る時間をなかなか取れなかったことだ。これまでも国内外で自分の個展を開いたことはあるが、それも多くは依頼作品を展示する場だった。

そのため、今年後半は3カ月ほど仕事を断っており、そこで自分のオリジナル作品に取り組みたいという。

「依頼されて作る作品と自分の作品では、時間の使い方や進め方が違う。この3カ月間はアート寄りのことを(同じ認定プロビルダーであり、アーティストとして活動するネイサン・サワヤのように)したいと思っていて、今後は依頼作品と自分の作品の両方に取り組んでいきたい」

(※ネイサン・サワヤについては、本誌ムック「レゴのすべて」にインタビュー記事を収録している)

一方で、この3カ月間にパソコンで設計する手法も試して部分的に取り入れていきたいと話す三井。認定プロビルダーになって7年が過ぎた今も、新しい挑戦を怠ることはない。

好きなことで生きていく――。それ自体は素晴らしいことだし、レゴファンでなくても、うらやむ人は多いだろう。だが、レゴ認定プロビルダーという職業は、日本では誰も歩んだことのない道。世界全体でもまだ16人だ。先駆者としての挑戦は、きっとこれからも続いていく。

●三井淳平
Twitter:@Jumpei_Mitsui
Instagram:@jumpei.mitsui/

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