最新記事

米メディア

天皇と謁見した女性経営者グラハム(ペンタゴン・ペーパーズ前日譚)

2018年3月29日(木)17時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

映画では名優メリル・ストリープがキャサリン・グラハムを演じた ©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

<スピルバーグ監督作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は、ワシントン・ポスト社主キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドレーを描く物語。その前日譚ともいえる「ブラッドレー起用」までの経緯をグラハムの自伝から抜粋する>

スティーブン・スピルバーグ監督による話題作『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』が3月30日に公開される。脚本/製作はリズ・ハンナ。彼女が本作の脚本を書くきっかけは、自伝『キャサリン・グラハム わが人生』(97年刊行、小野善邦訳、CCCメディアハウス)を読んだことだった。

キャサリン・グラハムは、ワシントン・ポスト社の社主であったユージン・メイヤーの娘。その父から敏腕経営者の夫フィルに経営は引き継がれたが、フィルの突然の死でキャサリンが社主となる。

しかし、お嬢様育ちでつい先日まで専業主婦であった彼女に対しては、社内外から冷ややかな視線があった。そもそも女性が第一線でばりばり働くこと、しかも経営者としてリーダーシップを取ることが想定されていない時代であったからだ。

しかし、キャサリンは周囲の予想に反し、ペンタゴン機密文書事件、そしてウォーターゲート事件という米メディア史上最大のスキャンダルで大決断を下し、一地方紙に過ぎなかったワシントン・ポストを世界的な有力紙に育て上げる。

ペンタゴン機密文書事件を題材としたスピルバーグの映画では、そのキャサリン・グラハムをメリル・ストリープが、編集主幹ベン・ブラッドレーをトム・ハンクスが演じる。

ここでは、自伝を再構成した新刊『ペンタゴン・ペーパーズ――「キャサリン・グラハム わが人生」より』(小野善邦訳、CCCメディアハウス)の第2章から、キャサリンが社主となった直後に日本やベトナムに外遊し、ブラッドレーを起用するところまでを3回に分けて抜粋する。

ワシントン・ポスト傘下にあったニューズウィークの、野心あふれるワシントン支局長ブラッドレーをポストの編集局長に――。いわば、映画の前日譚とも言える箇所だ。

◇ ◇ ◇

夫に先立たれた女性にとって、その直後の一年間は、恐ろしくつらいものである。私の場合も例外ではなかった。しかし、一年が過ぎる頃には、その深い悲しみも、外の世界に順応していける程度には耐えられるようになる。そして外の世界は、その人の身に何が起ころうと関係なく、いつもの活動を続けているのである。

仕事の難しさは、依然として巨大な壁のように立ちはだかっていた。業務で人と付き合う方法について、私には何の知識もなかった。また、人が私をいかに細かく観察しているかについても、ほとんど分からなかった。会社では、何気ない無意識のボディーランゲージに至るまで、私のすべての言動が、思いもよらない強烈なメッセージとなって伝わっていった。

このような無知に加えて、私はそれまでの人生を非常に個性の強い人たちとともに過ごしていたために、一面では静かで目立たないが、骨身を惜しまず働く社員の多くに対して無関心であったようにも思う。社員の中には、貴重な才能を秘めてはいるが、その才能が常時輝くように目立っているわけではないタイプの人びとがいる、という事実に気がつくだけでも、相当の時間が必要だった。非常に遅いペースであったには違いないが、私は次第に、仕事の成果がすべてを語るのであり、発展のためには社員は時として助力を必要とするものであり、また組織が正常に働くためにはあらゆる種類の人を必要とすること、などを学んでいったのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀の買入方針も念頭に置き、国債の安定的な消化に努

ワールド

ロシア国際経済フォーラム、欧米勢不在で経済復活への

ワールド

EU、マスク氏率いるXの企業構造を調査 xAIによ

ワールド

イタリア、「愚かな」EU財政規則を批判 国防費増額
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 4
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 5
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 6
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中