最新記事

技術

犬用義足を着けて4本脚で走れ!

2016年1月7日(木)15時12分
スチュアート・ミラー

 人間の義肢・装具を作っていたカウフマン夫妻は、02年に親戚の家のシュナウザーが脳卒中で歩けなくなったことをきっかけに、自宅のガレージで動物用義肢・装具作りを始めた。07年には動物用に専念し、現在は21人の従業員を使っている。夫妻が設立したオーソペッツ社(コロラド州)が国内外の提携クリニックを通じて義肢・装具を提供している動物は、月に約200頭にも上る。

 ビックリーは今も主として人間用の義肢・装具で生計を立てているが、動物向けでも着々と評判を確立している。作っているのはほとんどが犬用だが、地元の動物園のフラミンゴの膝用装具やヒツジの義足も手掛けた。

 犬用義足の値段は1500ドルほど。ほかに、年間100ドルの整備費が掛かる。犬は、義足を体に取り付けているストラップを噛み切ってしまうからだ。

「(ビックリーのおかげで)サービスの質を大幅に向上できた」と、ガルフコースト動物専門病院(ヒューストン)のブライアン・ビール獣医師は言う。「カーボンファイバーの義肢は柔軟性に優れていて、犬たちの違和感もおそらく少ない。義肢でしっかり走ることができる」

 動物用義肢・装具に関してはまだ正式な教育プログラムや免許制度はなく、効果についての本格的な研究もなされていない。ビールによれば、多くの獣医師はいまだに「脚を切断し、その後は残った3本で事足りるだろうという発想だ」という。

 しかし、3本脚で生活していると「関節炎を患いやすく、犬の寿命を縮めかねない」と、VERGIのデューハーストは言う。ジャーマンシェパードのノアは幸い、デューハーストの手術を受け、ビックリーが作った義足を着けて、今は4本の足で元気よく走り回っている。

元気な犬たちの姿を見よ

 ビックリーやカウフマン夫妻は、獣医師や飼い主たちへの啓蒙活動にも力を入れている。「5年前に比べれば、だいぶ意識が高まった」と、エイミー・カウフマンは言う。

 動物用義肢・装具に関する教育をカリキュラムに加える獣医学校も出てきている。カリフォルニア大学デービス校獣医学教育病院のジェイミー・ペイトンによれば、同校では講義と週1回の実習を行っている。

 カウフマン夫妻も16年に動物用義肢・装具についての教科書を刊行する予定だ。「教科書はとても価値あるものになるだろう」と、ペイトンも期待する。

 もっとも、ペイトンに言わせれば、「本当に人々の意識が変わるのは、効果を目の当たりにしたとき。3本脚で生活していた犬が義足を着けて自然に走れるようになった姿を見るのが一番だ」。

[2016年1月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ市の学校・市場を攻撃 少なくとも

ワールド

ドイツ国防相、600億ユーロ超への国防予算増額目指

ワールド

インドがパキスタンの「テロ拠点」攻撃、26人死亡 

ワールド

ウクライナに「テロの傾向」、モスクワ無人機攻撃で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中