最新記事

映画

話題作『Mommy/マミー』が映す愛と絶望と希望

カナダの監督グザビエ・ドラン監督は母子の葛藤の中に、普遍的な生きづらさと希望をみせている

2015年4月28日(火)19時47分
大橋 希

たくさんの愛 ダイアンにとってスティーブ(右)は悩みの種であり、最愛の人 Shayne Laverdiere / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

 強烈な磁力を感じる映画だ。昨年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を取っているが(ジャンリュック・ゴダールとW受賞)、そんな売り文句がなくても『Mommy/マミー』にはきっと多くの人が心をつかまれるはず。監督はカナダのグザビエ・ドラン(フランス語圏のケベック州出身)。26歳だ。

 舞台は2015年の「架空の国カナダ」。シングルマザーのダイアン・デュプレ(アンヌ・ドルバル)は、矯正施設から出てきた15歳の息子スティーブ(アントワン・オリビエ・ピロン)と一緒に暮らしはじめる。スティーブはADHD(注意欠陥・多動症)で、ときに激しく情緒不安定で攻撃的になる。

 トラブルの絶えない生活が少しずつ変わっていくのは、ダイアン親子が向かいに住むカイラという女性と親しくなってから。休職中の高校教師であるカイラはスティーブの勉強の面倒をみることになり、ダイアンの話相手になって――。

 ドランは脚本・監督・主演を務めたデビュー作『マイ・マザー』(09年)で反抗期にある少年の母への愛憎を描いた。今回また母というテーマに戻ってきたことは興味深い。「僕がもっとも愛するテーマを1つ挙げるとしたら、それはおそらく僕の母についてだ。同時にそれは母親というもの全体を指している」と、本人は語っている。

1:1という画面サイズが生む効果

webcinema010415sub2.jpg

思い出の日 カイラ(右)と出会い、親子2人の生活も変わっていく
Shayne Laverdiere / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

 これまでもそうだったように、ドラン作品の登場人物は複雑だ。いわゆる普通の人々、ではないかもしれない。ダイアンだって言葉は悪いし(タクシーの中で息子に「子供は黙ってオナニーしてて」なんてなかなか言えない)、40代とは思えない服装だし、スティーブとしょっちゅう怒鳴り合っている。カイラも家庭に問題があるようで、ストレスからか吃音に苦しんでいる。

 ADHDやシングルマザーという要素でいえば、当事者として共感できる人は多くはないと思う。それでも脚本や演出の鋭さゆえだろう、彼らを見ていると普遍的な、誰にでもある生きにくさや惑いを抱える存在として親近感を覚えてしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米豪首脳、サミットに合わせ会談へ AUKUSなど協

ワールド

カナダと英国、貿易深化と防衛協力拡大で合意 作業部

ワールド

マクロン氏、プーチン氏のイスラエル・イラン危機仲介

ワールド

原油先物続伸し3%超上昇、イラン・イスラエルの攻撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中