備蓄米放出は「米価高騰」の根本的解決にならない...政府と国民に求められる「解決策」とは?

RICE CRISIS OF 2025

2025年6月21日(土)11時15分
加谷珪一(経済評論家)

一連の現実を前提にすれば、備蓄米の放出によって抜本的に価格が下がることはないというロジックも理解してもらえるだろう。仮に備蓄米が放出されたとしても、高い価格で仕入れた事業者にとって、赤字を出してまで安く販売するインセンティブは働きにくい。来年もコメ不足が続き、高値で売れる見込みがある以上、仕入れ価格以下での販売に躊躇するのは当然の話だ。

備蓄米を流通させてコメの価格を下げたいのであれば、市場が破壊されるほどの量を放出する必要があり、今回の小泉氏による施策は近い効果を狙ったものといえる。


だが、適正な備蓄水準は100万トンのため、量に限りがある。コメの大規模な輸入に踏み切らない限り、価格が高いままのブランド米と、安く放出された備蓄米という二極化した市場構造となり、平均価格だけは大きく下落したという結果になる可能性が高い。

小泉氏が随意契約による放出を実施するまで、政府は価格引き下げに消極的だったが、最大の理由は、従来価格ですらコメ農家の存続が難しいからである。

日本のコメ農家は零細規模のところが多く、低価格なコメを大量出荷できない。インフレであらゆるコストが上がるなか、コメの店頭価格が2000円レベルでは農家が事業を継続することは不可能である。

ちなみに勤労世帯に換算した農家の平均年収は100万円を切っている。従事者の多くが高齢者で年金を受給しており、これで何とか生計を保っているのが現実だ。

農家や政府はコメの価格は下げたくないと考えており、これが一般的な消費者との感覚の乖離を招いている。コメに対するこの認識の乖離こそが、一連の問題の本質といえるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、10月は50 輸出受注が4カ

ビジネス

独製造業PMI、10月改定49.6 生産減速

ワールド

高市首相との会談「普通のこと」、台湾代表 中国批判

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中