最新記事
半導体

TSMCが人材を独占し、日本企業は生き残れなくなる? 高給だけじゃない「熊本工場」の衝撃度

SHOCK WAVE FROM KUMAMOTO

2024年3月14日(木)17時14分
林 宏文(リン・ホンウェン、経済ジャーナリスト)
TSMC熊本工場

Ricky kuo/Shutterstock

<JASMが提示した「大卒で28万円」という破格の初任給が話題だが、tsmcは日本を単なる下請けと見ているわけではない。本誌「tsmcのヒミツ」特集より>

世界の最先端半導体生産の圧倒的シェアを占める台湾企業TSMCの熊本工場が、2月24日に始動した。AIやEV、次世代通信に欠かせない半導体は戦略物資として各国が生産と確保にしのぎを削る。なぜTSMCは世界をリードするトップ企業に成長したのか。日本への工場進出はその戦略上どんな狙いからなのか。台湾人ジャーナリストでTSMC取材歴30年の林宏文(リン・ホンウェン)氏の著書『tsmc 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウスから3月22日刊行)から、そのヒミツを探る。

◇ ◇ ◇


TSMC熊本工場のヒミツ

熊本県菊陽町は人口4万人ほどの小さな町だ。2022年の春、半導体工場の建設がこの地で始まったことで、菊陽町は一躍脚光を浴び、工業用地の地価だけでなく、商業用不動産の価格も急騰した。新工場の建設はほぼ24時間体制で進められ、静かな地方都市だった菊陽町が眠らない街へと一変した。

工場とはTSMCとソニー、デンソーが共同出資したJASM(ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング)だ。投資総額約86億ドルのうち、日本政府からの補助金は最大4760億円で、日本で最先端の半導体工場になると同時に、過去最大の半導体投資プロジェクトでもある。

九州はかつて日本の半導体産業にとって重要な場所であり、自動車産業のサプライチェーンもあるため、TSMCと日系企業の合弁会社JASMが熊本に誕生したことが、日本の半導体産業と自動車産業を奮起させている。

JASMは現時点で半導体チップで月産5万5000枚、プロセス技術は28~10ナノメートルの間を予定している。TSMCアリゾナ工場の投資プロジェクトと違うところは、TSMCがJASMの全株式を保有するのではなく、株式保有構造上、TSMCが50%超、ソニーが20%未満、デンソーが10%超となっている点だ。

TSMCは現在、中国とアメリカと日本で大型工場を建設しているが、JASMは現時点でTSMCが顧客と共に設立した唯一の合弁会社である。この点から、このプロジェクトに特別な意義があることが分かる。

というのも、この工場が生産するのはソニーやデンソー向けのCMOSイメージセンサー(CIS)や車用チップで、全量が特定の顧客に供給されることになっている。これには日本側と共に出資して、双方の結び付きを保証する意味合いがある。

TSMCが日本でJASMに投資するのは、1つにはもちろん地政学的な理由があるからだ。日本は安倍政権の時代からTSMCに対して積極的に工場誘致を働きかけてきた。TSMCの工場を誘致することで、後れを取っている日本の半導体製造技術をキャッチアップさせ、より即時的な現地供給を実現できるようにしたいという期待が日本側にはあるからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ米政権、テンセントのゲーム会社出資維持巡り

ビジネス

航空・観光業界、中東紛争への対応に奔走 2万便超が

ワールド

豪GDP、第4四半期は前年比+2.6% 約3年ぶり

ワールド

トランプ氏安保チーム、地上部隊派遣排除せず イラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 4
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 5
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中