最新記事
イギリス

「横暴な区長」を謝罪に追い込んだ「生活保護」シングルマザーたち...英国で実際に起きた事件を知っていますか?

2023年11月23日(木)17時12分
flier編集部

でも、キャラクターの大部分は創作です。運動の中心になった Focus E15 という団体は今も活動を続けているのですが、メンバーがずいぶん入れ替わって、シングルマザーの団体ではなくなっているんです。事件当時のメンバーはもうバラバラになっていて、作中と同じように実際に北部に行かされた人もいます。その上、この連載を始めたのがコロナ禍だったので、運動のメンバーを探し当てて取材をするのは現実的ではありませんでした。そうした事情もあって、この事件を小説として書くことにしました。

ただ、こういう運動をした人たちは実在しているわけなので、現実からかけ離れた人物にするわけにもいきませんでした。そこで『子どもたちの階級闘争』という本に書いた託児所に勤めていたときに出会ったシングルマザーたちを参考にすることにしたんです。もともと貧困者支援の団体の中にある無料の託児所だったので、そこにはシングルマザーがすごく多かったんです。本当に貧しい人や依存症から回復中の人、10代で子どもを産んだ人など、それぞれ問題を抱えて苦労している話をよく聞いていました。ブライトンの貧困支援の団体で働いていた私がそこで受け取った感触と、ロンドンのシングルマザーの世界はきっとつながっている。だから、託児所で出会った人たちのことを考えながら作ったら、きっとそこまでかけ離れたものにはならないだろうと思いました。

子どもたちの階級闘争
 著者:ブレイディみかこ
 出版社:みすず書房
 要約を読む
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

──実際の事件を扱うことには気を遣うことも多かったのではないかと思いますが、気をつけた点はありますか。

一番意識したのは、日本人のキャラクターを出すということです。たとえば、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で出てくるうちの息子のことを、読者の方は日本人の子どもとして見ていらっしゃるようなんです。自分の子どものような気がすると言って読んでいる人もいたくらいで。あの本がもしイギリス人の家庭の話や、日本以外の国からの移民の話だったら、日本の読者はそんなに共感できなかったろうと思います。今回は運動小説で、日本の人々の常識からすれば過激とも取られかねないですから、なおさら日本人の目線が必要だと思いました。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
 著者:ブレイディみかこ
 出版社:新潮社
 要約を読む
(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本経済「持ち直しの見方、変わらず」=植田日銀総裁

ワールド

大統領選後に拘束記者解放、トランプ氏投稿 プーチン

ビジネス

ドイツ銀行、9年ぶりに円債発行 643億円

ビジネス

中国は過剰生産能力を認識すべき、G7で対応協議へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレドニアで非常事態が宣言されたか

  • 2

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決するとき

  • 3

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」...ウクライナのドローンが突っ込む瞬間とみられる劇的映像

  • 4

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 5

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 6

    韓国は「移民国家」に向かうのか?

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 10

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中