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東京から1時間175平米で26万円でも売れない 大量に放棄された「擁壁のある土地」とは?

2022年12月26日(月)11時50分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

たしかに不動産は二つと同じものはなく、見出す価値も人それぞれである。他ならぬ筆者自身、一般的な不動産の評価基準に照らし合わせれば、およそ話にもならない悪条件の分譲地を、わざわざ選んで暮らしている。擁壁上の宅地を好むこと自体を疑問視することはできない。

しかし千葉の限界分譲地は、すでに述べたとおり常に過剰供給の状態にある。道路との高低差が一切ない平坦な分譲地でも、売主の考え方次第で、たやすく底値で購入できてしまう市場である。

すぐに利用可能な宅地が数十万円で売られている市場において、まず宅地としての最低限の要件を満たすために数百万円の費用を要するのでは、商品として勝ち目などあろうはずもない。

一般的な住宅市場においても、今は擁壁の宅地は平坦地と比較して価格が落ちるのが通例だが、千葉の限界分譲地の価格相場には、その下げ幅がもう残されていないのだ。

車を駐車できない駐車場

ビルトインガレージ

古いビルトインガレージは、かつて主流だったセダン型の車高に併せて建造されているものがあり、現代の車両ではほとんど使うことができないものもある。(千葉県八街市文違) 筆者撮影

高低差が2m未満の擁壁であれば建築基準法の定める要件を満たす必要はなく、新築時に擁壁の構造や強度を問われることはないが、古い擁壁は法令上の制限の他にも問題を抱えていることがある。

特に目立つのが駐車スペースの不足だ。

これは限界分譲地だけでなく、古い郊外住宅地全般で起きている問題でもある。70年代、80年代ころに造成された擁壁の宅地は、駐車スペースを1台分しか確保していないものが多い。

中にはビルトインガレージを設けている宅地もある。乗用車と言えばセダン型が当たり前だった時代に造られたビルトインガレージは、今日の基準では総じて天井が低く、中にはまともに駐車できる車種がほとんどないものもある。

駐車場の拡張や造り直しを行うにしても、すでにそこに住居を構えて住んでいるのならともかく、新築用地として選ぶメリットがほとんどないのは、先に述べた建築基準法に適合していない擁壁の土地と同様である。

たとえ駐車スペースが不足していようとも、宅地需要・土地需要の高いエリアであれば、月極駐車場はたやすく見つかると思う。しかし、千葉の限界分譲地ではそうもいかない。有料の駐車場の需要がほとんどなく、幸運に借り手が付いたとしても、せいぜい1台あたり月に2000円から3000円程度の賃料しか得られないような市場では、月極駐車場の経営に着手する事業者はない。

駐車スペースを確保したければ、車両が乗り入れ可能な別の空き地を探さなくてはならず、これでは本末転倒も甚だしい。

崩壊した擁壁、歪んだ擁壁、地盤沈下......

そもそも建築基準法による規制を受けないということは、裏を返せば、安全のための統一された基準や、質の低い工事を排除できる審査や仕組みが存在しないということである。

どれだけ費用を投じて豪壮な家を建てたとしても、その家が立つ宅地の擁壁工事がずさんなものあれば何にもならない。

これまで筆者が訪問した分譲地の中には、よほど質の低い工事が行われたのか、擁壁そのものが崩壊して宅地が激しく沈下していたり、雨水が染み込んで膨張した土砂によって擁壁が歪み、今にも崩れ落ちそうな擁壁を見かけることもあった。

また、分譲販売時に見た目ばかり重視して、擁壁付近に苗木を植えてしまったために、数十年の年月を経た今、その苗木が大木となって、擁壁が木の根に押されて崩落し始めているものもある。

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