最新記事

日本社会

東京から1時間175平米で26万円でも売れない 大量に放棄された「擁壁のある土地」とは?

2022年12月26日(月)11時50分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

これらはいずれもずさんな工事の結末であり、立地条件を問わずどこでも起こりうることではあるが、一般論として考えて、実需に基づいて開発され、生活に必要な設備を一通り備えた標準的な住宅分譲地と、ほとんど投機目的のみで乱開発されたような、ろくにインフラも整っていない分譲地では、後者のほうが手抜き工事がまかり通る市場であったことは想像に難くない。

実際千葉県の限界分譲地においては、質の低い舗装や造成工事を見かけることは頻繁にある。そもそもまともな舗装すら行われていない分譲地もある。

「擁壁物件」には手を出さないほうがいい

books20221214newtown.png限界分譲地における擁壁の問題について指摘するのは、正直言って後ろめたさがある。

今でも区画ごとに所有者がいるはずだが、すでに多くの擁壁上の宅地が放棄され、荒廃して雑木林と化している。その現状を語るのは簡単だが、解決策として提言できることがなにもないからだ。

現行法令に適合していない擁壁はもはやどうにもならないし、工事をやり直すほどの価値も、地価が回復する見込みもまったくない。

この擁壁の問題は、筆者が以前の記事で指摘した、家屋の解体費用が更地の価格を上回っていて、廃墟と化した建物の始末が困難になっている事例に類似している。結局は、地価と、建築工事にかかわる人件費や材料費のバランスが崩れた際に生じる必然的な現象なのである。

地価の上昇が見込めるエリアで不動産を購入できれば話は簡単だが、今日の日本では、誰もが地価上昇エリアの物件をたやすく手に入れられる状況ではないだろう。

膨大な数の放棄区画から得られる教訓として言えるのは、工事費用に見合った資産となりうるかどうかの見極めが、今後はよりシビアになっていく、ということかもしれない。

今は遠い僻地の限界分譲地で起きているこの現象は、さらに人口減が進むこの先、次第に都市周縁の郊外住宅地にも、静かに侵食していく恐れがあるからだ。

吉川祐介

ブロガー
1981年静岡市生まれ。千葉県横芝光町在住。「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」管理人。「楽待不動産投資新聞」にコラムを連載中。9月に初の著書『限界ニュータウン 荒廃する超郊外分譲地』(太郎次郎社エディタス)を出版。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比4.3%増 民間航空

ワールド

中国、フェンタニル対策検討 米との貿易交渉開始へ手

ワールド

米国務長官、独政党AfD「過激派」指定を非難 方針
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中