自作曲を歌うたび「使用料」を払う必要が...... 「歴史に残る名曲」56曲の著作権を1500万円で手放したビートルズの後悔

2022年10月24日(月)18時55分

ビートルズがノーザン・ソングスの株式公開をしたのは、例の税金問題が大きく関係している。前述したように、ビートルズは高額所得者であり、当時のイギリスの税制では9割以上の高い税率が課せられる。そのため、なんとかして課税を逃れる術を探っていた。その方策の一環として、株式公開がされたのだ。

株式公開すれば、もとの株主は多額の配当を受けることができる。当時のイギリスの税法では、この配当金には税金がかからないことになっていたのだ。

この株式公開により、ジョンとポールはそれぞれ9万4270ポンド(当時の日本円で約1000万円)ずつ受け取った。すでに億万長者だった当時のジョンとポールにとっては、それほどの大金ではないが、税金のかからない収入は魅力があったのである。

ただジョンとポールは、この株式公開のあと、とんでもない税金対策をしてしまう。

1963年から1966年までにつくった56曲のうち、作家取り分の権利を、ノーザン・ソングスに売ったのだ。

56曲の著作権を1500万円で売却

前述のように、ジョンとポールの曲の著作権印税は、半分がジョンとポール、半分がノーザン・ソングスに行くようになっていた。このうち二人の取り分をノーザン・ソングスに売ったのである。

そのため、1963年から1966年までにジョンとポールがつくった56曲の著作権は、100%がノーザン・ソングスのものになったのだ。

それでもノーザン・ソングスの株は、ジョンやポール、ブライアン、それにディック・ジェイムズという"身内"で持っていたため、それほど危険なこととは思っていなかった。

この売却により、ジョンとポールは、それぞれ14万6000ポンドずつを受け取った。当時の日本円にして1500万円程度である。これもジョンとポールの資産から見れば、大した額ではなかった。

しかし、この売却益には3割しか税金が課せられなかったので、税金対策としては魅力的だったのだ。

後世の我々から見れば「ビートルズはなんてバカなことをしたんだ」と思う。

「ビートルズの56曲の著作権」と言えば、とんでもなく貴重な財産である。ビートルズ・ファン以外でも想像がつくことだろう。しかし当時は、ビートルズの楽曲がそこまで価値が出るとは、誰も思っていなかったのである。

「稼ぎどき」はとっくに過ぎたと思われていたが......

当時、たしかにビートルズのレコードは爆発的に売れていたが、もうピークの時期は過ぎたと見られていた。ポップスのレコードは、出した当初がもっともよく売れ、その後はだんだん下がっていき、数年後にはほとんど売れなくなる。

だからこの56曲も、当時の常識から見れば「稼ぎどき」はとっくに過ぎていたのである。レコードとしては、もうそれほど売れないだろうから、今のうちに著作権を財産に換えておけ、ということだったのだろう。

「ビートルズのレコードが半世紀にわたって世界中で売れ続ける」などということは、当時は誰も知る由がなかったのだ。だから、この当時のビートルズ側の判断を責められるものではないだろう。

またビートルズ自身が、ノーザン・ソングスの大株主なのだから、自分たちの曲が人手に渡るわけではない、という安心感もあった。

しかし、やがてビートルズは「株式公開」が、いかに危険が伴うことなのかを、大きな痛みとともに知ることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米株から日欧株にシフト、米国債からも資金流出=Bo

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、4月改定49.0 32カ月ぶ

ビジネス

仏製造業PMI、4月改定値は48.7 23年1月以

ビジネス

発送停止や値上げ、中国小口輸入免税撤廃で対応に追わ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中