最新記事

自動車

日本でEVが普及しない根本原因とは ── 30分かけても高速道1時間分しか充電できない

2022年7月23日(土)12時30分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載
「日産サクラ」

日産自動車は、「日産サクラ」が5月20日の発表から約3週間で受注1万1429台に達した(6月13日時点、日産調べ)と発表した。(写真提供=日産自動車)


6月16日に発売が開始されたBEV軽自動車の「日産サクラ」が売れている。自動車業界に詳しいマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明氏は「この現象は、日本のBEVの使用環境の特徴と、マーケットが本当に求めているものを端的に表している」と指摘する──。


発売3週間で1万1000台のヒット

軽のBEV(Battery Electric Vehicle=バッテリー式電気自動車)、「日産サクラ」が発売され、発表後3週間で1万1000台超と受注は非常に好調だ。サクラの販売担当者によれば、年間5万台くらいを狙っているという。

昨年の日本国内のBEV販売台数は輸入車も含めて2万台程度ということだから、サクラは爆発的な売れ行きといっていいだろう。

一方、日産が2年前に発表し、1年前から予約を開始しているミドルクラスSUVサイズのBEV「日産アリア」は、この1年間の予約数が6800台と、サクラに比べるとかなり見劣りしている。

もちろん、サクラとアリアでは価格が大きく異なる。安価なサクラのほうが販売台数が多いのは当然だが、この差を生む要因に、現在の日本におけるBEVの使用環境もあると考えられる。

どういうことか。

航続距離が半分以下のBEVのほうが売れている

サクラは軽自動車で航続距離は180km。アリアは3ナンバーサイズのSUVで2種類のバッテリーサイズがあり、小さいほうが470km、大きいほうが580kmだ。

サクラでは遠出することは難しいが(安心して出かけられるのは片道50km程度だろう)、アリアであれば通常のガソリン車と同じように使えるように思える。

しかし現実ははるかに厳しい。アリアであれば東京―静岡(片道約180km)程度であれば途中充電なしで帰ってくることができるだろう。だが、たとえば名古屋(片道約350km)まで出かけようとするなら、どこかで充電しなければ帰ることができない。

「高速道路のサービスエリアなどに設置されている急速充電器を使えばいい」とBEVに乗った経験がない人は思うだろう。確かにそうなのだが、そこに大きな問題が潜んでいるのだ。

高出力対応の急速充電器が全然ない

現在、多くのサービスエリアやパーキングエリアには急速充電器が設置されている。しかしそのほとんどが出力40~50kW程度の充電器なのである。

最近は90kW級の充電器も設置されているが、新東名高速道路では上り下り各1カ所、東名高速道路では海老名サービスエリア(上り下り)のみで、名神高速道路も草津パーキングエリア(上り下り)にしかない。それ以外には、首都高速道路大黒パーキングエリアにあるのみだ。

つまり、中央道にも東北道にも関越道にも山陽道にもひとつもないのである(正確を期せば、充電器そのものは高出力対応のものが設置されているところは何カ所かあるが、どれも出力を56kWに制限している)。サービスエリア・パーキングエリア以外の充電器もほとんど(おそらく99%以上)は50kW以下の充電器である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米大手6銀行、第3四半期の配当金引き上げ計画を発表

ワールド

トランプ氏、フロリダの不法移民収容施設「ワニのアル

ビジネス

サンタンデールが英銀TSB買収、預金残高で英3位の

ワールド

イスラエル、60日間のガザ停戦確定に必要な条件に同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中