最新記事

日本企業

オートバイ業界初の女性トップ桐野英子新社長はなぜ「漢カワサキ」で認められたのか

2021年12月12日(日)17時40分
河崎三行(ライター) *PRESIDENT Onlineからの転載
KMJ新社長の桐野英子氏

10月6日に行われたカワサキモータース事業説明会に登壇し、スピーチするKMJ新社長の桐野英子氏  写真提供=カワサキモータース


今年10月、川崎重工業はバイク・エンジン部門が分社化し、「カワサキモータース」を設立した。同社子会社である「株式会社カワサキモータースジャパン」の社長には桐野英子さんが就任、四大メーカーの国内販売会社で初の女性社長になった。「漢カワサキ」とも呼ばれる特徴あるブランドを、桐野新社長はどう率いていくのか。ライターの河崎三行さんが聞いた――。


『カワサキ』ブランドのバイクを製造販売してきた川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニーが、10月1日から分社化による新会社『カワサキモータース株式会社』へと生まれ変わった。独立経営とすることで意思決定のスピード向上、ブランド力強化などを目指すという。

そしてこの移行と日を同じくして、カワサキモータース製品の日本国内販売を担う『株式会社カワサキモータースジャパン(以下、KMJ)』の新社長に、桐野英子氏が就任した。

業界初、異色の経歴の「女性」社長

世界的な知名度を誇る、日本のバイクブランド。そのお膝元である日本国内の販売会社トップを女性が務めるのは、『ホンダ』『ヤマハ』『スズキ』『カワサキ』のいわゆる四大メーカー全体を通して史上初のことだ。

カワサキといえば昔から、アグレッシブでマニアックな製品作りで独特の存在感を放ってきた。それゆえ男性ユーザーの比率が他社以上に高いと言われ、彼らのマシンに対する思い入れもひときわ強いため、ライダーやメディアからしばしば"漢(おとこ)カワサキ"と称されてきたブランドだ。その国内販売の指揮を女性が執るだけでも画期的な人事であるのに、加えて学生時代の桐野氏は東京外語大でペルシャ語を専攻していたという。

日本の二輪業界においては異色づくしの彼女は、果たしてどのような人物なのか?

どこか遠くへ行ってみたかった

札幌出身の桐野氏が進学にあたり、東京の大学で外国語を学ぶことにしたのは、故郷を出てどこか遠くへ行ってみたかったからだった。

「ただ親が非常に厳しくて、『絶対に北海道では勉強できないことを学ぶためでない限り、認めない』と。そこでいろいろ探してみると、東京外大にペルシャ語学科というのがありまして、ちょっとエキゾチックで面白そうだなというぐらいの気持ちで選んで受験したんです」(桐野氏、以下同)

晴れて合格を果たし、上京。学生生活を謳歌する中で、彼女はバイクという乗り物に出会う。

「大学ではとりあえず当時のはやりだったテニスサークルに入ったりとか、いろいろいくつかやってみたものの、どれもしっくりこない。子供の頃から、私は車が大好きでした。けれど仮に安く手に入れることができたとしても、学生の身、それも東京では置き場所の確保すらままなりません。だったら時間があるうちに、バイクにでも乗ってみようかと思い立ったんです」

中型免許を取得した彼女はいそいそとバイクショップを訪れ、意中のモデルを購入したいと店主に告げる。

「当時とてもかっこよかった『白く』て『4気筒』で『400cc』の、ヤマハFZR400です。GPライダーの平忠彦さんが、鈴鹿8耐に出場して盛り上がっていた頃でしたから」

バイクとの出会い

だがその店主は、客の要望を受け入れてくれなかったのである。

「『そんなもん乗れるわけないだろ!』と散々お説教と説得をされて......」

FZR400はバリバリのレーサーレプリカで、免許を取ったばかりのライダーがおいそれと操れるような代物ではない。昔の町のバイク屋には、客が欲したモデルであっても、当人のためを思い首を縦に振ってくれない頑固オヤジがけっこういたものだ。

「結局、半ば強引に勧められて買ったのが、『黒く』て『2気筒』で『250cc』のカワサキGPX250Rでした」

基本性能がしっかりしていながら、初心者にも扱いやすいと評価が高かったモデルである。バイク屋の店主のおせっかいがきっかけとはいえ、ライダー人生のスタートから桐野氏の相棒はカワサキだったのだ。

カワサキ『GPX250R』

桐野氏の人生初バイクとなった『GPX250R』  写真提供=カワサキモータース

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中