人間には簡単だが機械には苦手なこと、その力を育むものこそ「数学」だ

2021年11月18日(木)11時54分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

人間は、人の顔も瞬時に見分けられるやろ? 「あ! プラトン君や!」とか、「あ! アルキメデス君や!」とか、見ればすぐにわかるやろ。な?

環: いや、僕は二人とも会ったことがないですけど......。

ピ: コンピュータに、プラトン君とアルキメデス君の見分けかたを教えようとしたら、どうすればいいんや?

環: いやだから、僕は二人とも会ったことがないですけど......。

でも確かに、人の顔をどうやって見分けているか、いざ説明しようとすると難しいですね。

ピ: せやろ。目の間の距離が何ミリで、鼻の穴の直径が何ミリのほうがプラトン君で......と説明するのはとんでもなく難しい。それが最近になって、リンゴの絵や人の顔を見分けられるようになった。

環: SNSの顔の写真が、すぐにタグ付けされるようになりましたね。

ピ: それから、自然言語処理。「自然言語」っていうのは、C言語とかJavaScriptとかいった、いわゆるプログラミング言語でなくて、日本語や英語といった、人間が普通に使う言葉のことやな。コンピュータって、しゃべったり書いたりするのはわりと得意やけど、話を聞いたり文を読んだりするのは苦手なんや。自動翻訳機がなかなか実用化されないのも、これが理由や。日本語を英語に翻訳する前に、まず日本語を理解するのが難しい。人間だと幼稚園児でも日本語を聞いて話を理解するのに、コンピュータだとなかなか上手くいかんのや。「ヘイSiri!」と話しかけて、スマホが人の話を聞いてくれるようになったのは結構最近やろ。

環: 囲碁や将棋の大局観、画像認識、自然言語認識。このあたりが、いままでコンピュータが意外と苦手としてきた分野の例ですね。

ピ: せや。そして、これらの分野がAIでできるようになってきたから大騒ぎしているわけや。AIが囲碁でプロに勝った。AIで人の顔を見分けられるようになった。AIに話しかけると返事をするようになった。この3つには大きな共通点がある。

環: 共通点?

ピ: 抽象化や。

環: また抽象化ですか!

ピ: だから、AIと数学は関係あるゆうたやろ!

基本的に、コンピュータ・プログラムちゅうのは具体化をするものなんや。そして、人間に真似できない圧倒的な具体化力を持つ。一方で、抽象化は苦手としてきた。例えば関数f(x)が定義されているとき、コンピュータは、f(1) でもf(5 .9) でもf(43534798)でも一瞬で計算できるやろ。明らかに人間より優れているんや。ところが、逆にコンピュータに「関数f(x)を定義しなさい」と言っても、これは難しい。というか難しかったんや。いままではな。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中