最新記事

米中対立

バイデンの電動バス促進政策、中国メーカー排除が足かせに

2021年7月19日(月)09時31分
中国の電気自動車メーカーBYDの2階建てバス

中国の電気自動車(EV)メーカー、BYD(比亜迪)の米子会社BYDノース・アメリカがロサンゼルスの北で運営する電動バス工場は、バイデン大統領が目指す理想を体現しているかのようだ。写真はカリフォルニア州ランカスターにあるBYDの工場に置かれた、納品直前の2階建てバス。1日撮影(2021年 ロイター/Mike Blake)

中国の電気自動車(EV)メーカー、BYD(比亜迪)の米子会社BYDノース・アメリカがロサンゼルスの北で運営する電動バス工場は、バイデン大統領が目指す理想を体現しているかのようだ。製品はもちろんバッテリー式で生産場所は米国内、そして環境にやさしいからだ。

アメリカンフットボール競技場9個ほどの広さを持つこの工場では、労働組合に所属する約500人が、バッテリーパックを組み立て、フレームを溶接し、座席やハンドル、料金箱などを装着しながら、二酸化炭素排出量ゼロ(ゼロエミッション)のバスを量産している。

バスの電動化もしくは燃料電池車への切り替えは、輸送セクターからの二酸化炭素排出量を減らす最も手っ取り早い方法とみなされている。米国の二酸化炭素排出量の29%を占めるのが輸送セクターだ。

ところが、BYDノース・アメリカは、公共交通事業者が電動バスを購入する際に米政府が支給する補助金の適用対象から除外されている。その理由は、BYDなどを念頭に置いて、中国政府が所有・管理するか助成している企業に連邦補助金を使用することを禁じた「修正米国防授権法」の存在にある。

BYDノース・アメリカの広報担当者は、中国の親会社から助成金を受け取っていない点を根拠に、この決定に対して異議を申し立てる方針を表明。「電動バス市場からわれわれを閉め出すのは米国の消費者、納税者、労働者にとってマイナスだ」と強調した。

実際、電動バス生産セクターの2大勢力の1つであるBYDを政策支援の枠組みから外してしまえば、たとえ他のメーカーの生産増が見込まれるとしても、バイデン氏が米国の公共交通網を急速に電動化するのは難しくなり、同氏が掲げる気候変動関連政策の重要な目玉は実現が危うくなる、と専門家は警鐘を鳴らす。

米政府の輸送関連補助金と政策動向を研究しているイーノ・センター・フォー・トランスポーテーションのシニアフェロー、ジェフ・デービス氏は「現在の米国の生産インフラからすれば、BYDをのけ者にして早期に大規模なバスの電動化が達成できるとは極めて想像しづらい」と述べた。

ホワイトハウスのある高官は、ゼロエミッションのバス向けのしっかりした購入補助金制度と、車両およびバッテリーのメーカーへの支援を組み合わせれば、電動バス普及の加速を十分支えられる国内生産能力を築けると自信を見せる。

また、バイデン氏と議会の超党派グループは既に、公共交通機関の保有台数の約70%に当たる5万台前後のディーゼルバスを今後8年で電動バスに置き換えるために、75億ドルという未曽有の予算を拠出することに合意している。これは、2030年までに国内の二酸化炭素排出量を半減させるという政権の目標達成に向けた取り組みの一環だ。

米電動バス市場でBYDの主な競争相手となっているのは、カリフォルニア州に拠点を置くプロテラで、両社はいずれもこれまでに米国内で約1000台を販売した。プロテラは、今後数年のうちにバッテリーセル製造工場も建設することを計画している。

センター・フォー・トランスポーテーション・アンド・ザ・エンバイロメントのエグゼクティブディレクター、ダン・ローデボー氏によると、これから次第に増産が期待されるのは、米GILLIGやカナダのNFIグループ傘下のニュー・フライヤー、ボルボ子会社でカナダに拠点があるノババスなど。ただ、現時点では全社とも電動バス生産能力がBYDに比べれば見劣りする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付

ワールド

情報BOX:米国防権限法成立へ、ウクライナ支援や中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中