最新記事

自動車

テスラの高性能EVが100万円代、中国からは50万円を切る小型EV...  日本車が迎える「黒船」の脅威

2021年6月25日(金)20時35分
五味 康隆(モータージャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

NIOのEVは大容量バッテリーが売りです。大容量バッテリーはふつう、充電に時間がかかるのが弱点ですが、NIOでは充電する代わりに、バッテリーごと交換するシステムを開発。バッテリーを積み替える交換ステーションは中国にすでに200カ所ほどありさらに増やす計画が立てられています。

その一方で中国では50万円を切る小型EVも普通に売られています。日本の軽自動車メーカーは、軽自動車サイズで50万円を切る中国製EVが入ってきたときに、どのように迎え撃つのでしょうか。そういう勝負にも日本メーカーは備えないといけません。

政府は本気で電動化を進める気があるのか

2021年1月、菅義偉首相は「2035年までには国内の新車販売において100%の電動化を実現する」と述べています。世界の流れを見れば当然の発言であり、それによって日本国内でもEVに注目が集まり、議論が起きるのは非常にいいことだと感じます。

EVのシェアは今後、どんどん上がっていきます。日本だけを見たらハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)があるので、そこまで急速には上がらないかもしれません。でも自動車メーカーはどこもグローバルなビジネスをしており、世界全体がEVにシフトしているのは明らかなのですから、もっともっとEVに注力していかなければなりません。

政府も本気で自動車の電動化を進めると言うなら、せめて補助金ぐらいはもっと計画的に設定してはどうでしょうか。

例えば僕がトヨタの「ミライ」を買ったときは、新型として車が出て、買って、車が来て、その後にやっと補助金の額が分かるという具合でした。今でも毎年、年度が変わるたびに監督省庁では「来年はこうなります」とか「いえ、今は年度の切り替わりで補助金額が分かりません」などと言っています。

「日本沈没」にもなりかねない

現状でEVの売れ行き、普及を決めるのは補助金です。そんな状況では買うほうも手を出しづらいし、企業も販売戦略を立てられません。

今は日本にとって、本当に大事な時期ではないかと感じています。自動車のEV化の流れには、絶対に備えなくてはいけません。テスラやNIOのような強力な新興勢力と戦って勝ち続けないと、日本の自動車メーカーにはもう先がないのです。

そのためには世界に目を向け、大変革をしなければなりません。

自動車関連企業のみなさん、テスラや中国EVメーカーに勝つための企業戦略を真剣に立ててください。もしみなさんが負けて沈没したら、GDP(国内総生産)も個人消費も落ち込んで、「日本沈没」という事態にもなりかねません。それぐらい強い意識で、危機感を共有してほしいのです。

(構成=久保田正志)

五味 康隆(ごみ・やすたか)

モータージャーナリスト。1975年、神奈川県に生まれる。1989年より自転車トライアル競技を始め、世界選手権に出場。1994年、自動車レース競技に転向し、2001年までの3年間は全日本フォーミュラー3選手権に参戦した。その後、各種安全運転スクールの講師やドライビングインストラクターとしての活動を経て、2003年よりモータージャーナリストとして評論や自動車雑誌等への執筆、メーカーの先行開発協力などを行う。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTube「E-CarLife」WebサイトFacebookTwitter

※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中