最新記事

クーデター

日本の官民連合、ミャンマーで不動産開発 毎年2億2000万円の土地賃料が国軍配下の国防省へ

2021年3月25日(木)17時55分

ミャンマーで総額300億円以上の不動産開発事業を進める日本の官民連合が、ホテルやオフィスなど複合施設を建設する用地の賃料を支払い、それが最終的にミャンマー国防省に渡っていたことが分かった。写真はヤンゴンのYコンプレックス建設現場で2日撮影(2021年 ロイター)

ミャンマーで総額300億円以上の不動産開発事業を進める日本の官民連合が、ホテルやオフィスなど複合施設を建設する用地の賃料を支払い、それが最終的にミャンマー国防省に渡っていたことが分かった。ロイターが取材した複数の日本企業、政府関係者が認めた。

「ヤンゴン市内都市開発(Yコンプレックス)」と呼ばれるこの事業が、ミャンマー国防省の利益につながっていたことを日本側が認めたのは初めて。日本側は賃料の支払い先が国防省であり、ミャンマー政府だと認識していたが、国防省は2008年に制定された憲法上、国軍の支配下にある。

同事業には日本から大手ゼネコンのフジタコーポレーション、大手不動産の東京建物のほか、日本政府が95%を出資する海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が参画。政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)も融資をしている。

賃料を支払うのは違法ではないものの、事業が始まった2017年は、ミャンマー国軍によるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャへの人権侵害が問題となっていた。国際司法裁判所は虐殺について調査を進めている。国軍は今年2月には軍事クーデターで政権を奪い、これまでに、抗議活動に参加した市民260人以上を殺害している。

ミャンマー国防省、国軍のコメントは得られていない。国軍はロヒンギャへの行為を武装勢力を対象にした「掃討作戦」だとし、ミャンマー政府は人権侵害や虐殺との国際社会からの非難を虚偽と否定している。クーデターで多数の死者が出ていることについては、抗議に参加した市民の責任だとし、放火や暴力行為を非難している。

軍事博物館跡地に商業施設

Yコンプレックスはシュエダゴン・パゴダ通りや中央駅に近いヤンゴン中心部の陸軍の所有地にあり、ミャンマーを60年近く支配してきた国軍に関係した資産の1つ。現地企業を介して賃料を支払っている日本側は、受け取り手はミャンマー政府であり、国軍ではないと認識していた。

JOINによる同事業への出資を認可した国土交通省はロイターの問い合わせに対し、国防省は政府機関であり、軍とは「直接的にも間接的にも」関係ないと判断していたと回答した。国防省は、軍事政権時代に起草され2008年に制定された憲法上、国軍の支配下にあるが、この点についてはコメントを控えた。

フジタと東京建物が、ヤンゴンの軍事博物館跡地にオフィスや商業施設、ホテルを建設・運営する事業に乗り出すと発表したのは2017年。JOINを含めた3社で作る特別目的会社を通じ、ミャンマーのヤンゴン・テクニカル・アンド・トレーディング(YTT)社と現地プロジェクト会社を設立し、総事業費は約377億円を計画している。

フジタ、東京建物、JOINはそれぞれロイターの取材に対し、共同で作った事業体が土地の賃料を支払っていることを認め、賃料は現地パートナーのYTT社を介して支払っていると説明。YTTは、農業や銀行、医療、不動産を手掛ける民間の複合企業アヤヒンターホールディングス傘下にある。JBICは2018年、特別目的会社との間で融資契約を結んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中