最新記事

米大統領選2020 アメリカの一番長い日

著名エコノミスト9人による次期大統領への助言──コロナで深刻な打撃を被った米経済への処方箋は?

RX FOR AN AILING ECONOMY

2020年11月18日(水)18時15分
ピーター・カーボナーラ、スコット・リーブス(本誌記者)

低迷する米経済をどうやったら立て直せるか MICHAEL RAINES-MOMENT/GETTY IMAGES

<次期大統領の最優先課題は経済の立て直しだが、そのためにどんな行動を起こすべきか──9人の著名エコノミストに「大統領に最も助言したいこと」を聞いた。本誌「米大統領選2020 アメリカの一番長い日」特集より>

アメリカ人の目下の関心事は経済。10月初旬の世論調査会社ギャラップの調査では、大統領選の投票先を決める重要な要素は「経済」と答えたのは登録有権者の9割近く。テロや新型コロナウイルス、人種問題などを上回った。
20201117issue_cover200.jpg
全米の失業率は4月の14.7%より下がったが、9月の数字で7.9%と依然高い。失われた雇用は約3000万。深刻な影響を受けているのが中小企業の多い業界だ。口コミ情報サイトのイエルプの調査では、今年コロナの感染拡大で休業した飲食店3万2109軒のうち、1万9590軒(61%)は閉店した。

低迷する経済の立て直しに次期大統領は何をすべきか。著名な経済専門家9人に「経済について大統領に最も助言したいこと」を聞いた。

◇ ◇ ◇

ためらわずに3兆ドルの景気刺激を

■マーク・ザンディ(ムーディーズ・アナリティックス主任エコノミスト)

2008年秋にアメリカから始まった世界金融危機の教訓を忘れるな。そう力説するのは格付け会社ムーディーズのマーク・ザンディ。あのときは流動性の枯渇で市場が金欠に陥ったのに連邦政府が金を出し惜しみ、結果として必要以上に景気の下落・停滞が長引いて、それだけダメージも大きかった。「おかげで完全雇用(失業率4%以下)まで戻すのに10年もかかった」と、ザンディは言う。「もう同じ過ちを繰り返すわけにはいかない」

だから次期大統領は、取りあえず財政赤字も債務残高も忘れて市場に公的資金を投入し、思い切った景気刺激をやるべきだ。そう信じるザンディが期待するのは、現職ドナルド・トランプの続投ではなく民主党のジョー・バイデンが率いる政権の誕生。公共事業で景気を下支えするのは民主党の伝統だから、老朽化したインフラの更新や学校教育の充実に重点投資するのをためらわないとみる。

具体的な金額は? 本気で景気と完全雇用の早期回復を望むなら、少なくとも3兆ドルの投資が必要だとザンディは言う。議会民主党の当初案(3兆4000億ドル)よりは少ないが、今の共和党案(1兆6000億ドル)や民主党案(2兆2000億ドル)よりずっと多い。

有給の育児休暇を制度化して「 賢く消費する」女性を支援すべき

■サリー・クラウチェク(女性のための投資会社「エレベスト」のCEO)

アメリカ女性の4人に1人はコロナ危機のせいで仕事のダウンシフト(働く時間の短縮や、給料は下がっても楽な仕事への転職など)を検討し、または仕事をやめようと考えている──マッキンゼーの最近の報告にはそうある。これが本当なら彼女たちにとって不幸なことだし、国全体の生産性を維持する上でも由々しき事態だ。流れを変えるには有給の育児休暇を制度化し、雇用主に義務付けることが必要だと論じるのはサリー・クラウチェク。ウォール街のベテランで、今は女性向けのオンライン投資会社を経営している。

「今までの私たちは考え違いをして、出産休暇や育児休暇を(会社にとっての)コストと見なしてきたが、本当は投資であり、最初の年から帳尻が合うはずだ」とクラウチェクは言う。

「女性は総人口の半分を占める。この巨大なターゲットにもっとお金を持たせれば、すごいことが起きる。経済は成長し、世の中はもっと平等になる。家計は楽になり、非営利団体も楽になる。女性のほうが自分の富を分け与えるのに積極的だから」とクラウチェクは言い、「アメリカのGDPを大幅に引き上げたいなら、まずは女性に目を向けるべき」だと提言する。

そもそも女性の消費は、一般に男性よりも生産的だ。クラウチェクによれば、「男性は余った金を酒や遊びにつぎ込みたがるけれど、女性は家族の未来のために投資する」からだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ中国製EV販売、6月は前年比0.8%増 9カ

ビジネス

現在協議中、大統領の発言一つ一つにコメントしない=

ビジネス

日米で真摯な協議続ける、今週の再訪米否定しない=赤

ビジネス

焦点:25年下半期幕開けで、米国株が直面する6つの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中