最新記事

日本経済

コロナショックで岐路に立つ製造業の「現地現物主義」 メーカーはAIに活路

2020年9月2日(水)17時27分

プリンター部品をチェックするリコーインダスリーの従業員。7月13日、神奈川県厚木市で撮影(2020年 ロイター/Naomi Tajitsu)

愛知県豊橋市にある武蔵精密工業の自動車部品工場では、ロボットが品質管理のための検査作業の一端を担っている。トヨタ自動車が提唱し、20世紀の大量生産モデルに革命をもたらしたと賞賛される「現地現物主義(直接現場に足を運んで現物を目にすること)」が、新型コロナウイルスのパンデミックによって急速な変化を迫られている製造業界の今を物語る光景だ。

この工場内に置かれたロボットアームは、「ベベルギア(かさ歯車)」と呼ばれる重要部品を取り上げ、回転させて光に当てながら表面に欠損がないかどうか点検する。1つの部品に要する作業時間は約2秒と、シフト当たりおよそ1000個をチェックできるベテラン従業員並みの実力だ。

同社の大塚浩史社長は「同じ部品を毎日1000個検査する作業員がいる。熟練が必要だが、決してクリエーティブではない」と話す。「そういう仕事から人間を解放したい」という。

世界中のメーカーはこれまでも生産工程にロボットを活用してきたが、欠陥品を見つけ出す複雑な仕事は主に人間に任せていた。だが新型コロナ感染防止対策としての社会的距離の確保が至上命題となり、製造現場も考え方の軌道修正を迫られつつある。

そこで利用が拡大しているのがロボットや、品質管理のための他の技術だ。例えば遠隔監視システムなどは既にパンデミック前から導入されている。

日本においてそうした取り組みが意味するのは、トヨタが掲げてきた生産方式の1つで、国内の各メーカーがほとんど宗教的な熱意をもって何十年も取り入れてきた現地現物主義と、きっぱりたもとを分かつということだ。

トヨタ方式は、欠陥品発見のために生産ラインのあらゆる範囲を常に監視する任務を労働者に託す。つまり品質管理は、自動化が進んだ製造現場で最後まで人間の手に残った、数少ない仕事になった。

ただ、このやり方の「本家本元」であるトヨタでさえ、現地現物的な側面がより強い部門で自動化を推進するのかどうか聞かれたある広報担当者は「われわれは常に製造過程の改善方法に目を向けている。そうする方が妥当な分野での自動化プロセスも、そこに含まれる」と答えた。

既存技術の応用

人工知能(AI)の発達は、それを手頃に使える機器の進歩と歩調を合わせているだけでなく、顧客からの品質に関する要求水準の高まりという事態にも背中を押されている。

ジャパンディスプレイ<6740.T>の永岡 一孝チーフ・マニュファクチュアリング・オフィサーは「顧客からの品質要求が厳しくなってきている」と語り、人海戦術による生産ラインに比べて「自動化ラインで生産した製品の方が、品質レベルははるかに安定している」という。顧客は自動化の進展具合を気にしており「自動化でないと、顧客が心配するという状況になりつつある」という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ブラウン大銃撃、拘束の「重要参考人」釈放へ 事件

ビジネス

防衛費増額、国の要請に基づき準備と対応進める=三菱

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否

ビジネス

中国11月鉱工業生産・小売売上高、1年超ぶり低い伸
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中