最新記事

日本経済

新型コロナウイルスがあぶり出した「中国依存」 国内回帰阻む少子高齢化の呪縛

2020年5月1日(金)17時24分

サプライチェーン見直しに立ちはだかる為替・人手不足のハードル

経産省幹部は「自動車にせよ、何にせよ、サプライチェーンを見直さなければならない」と危機感を示す。例えば、自動車なら、下請けが作る部品は共通化し、かつ、日本を含む複数の地域で生産することでリスク回避ができるようになる。付加価値の高い製品は日本、汎用品はASEAN各国への分散が念頭にある。

日本電産の永守重信・最高経営責任者(CEO)は4月30日の会見で、今回、どの部品が入手困難になり、そのことがどのような影響を与えたかを徹底的に分析し、直ちにそこに投資すると表明。「何かあったときには自分のマザー工場からきちっと部品を供給できるという体制に切り替える」と語った。

しかし、永守氏のように、すぐにサプライチェーン見直しに着手する動きは少ない。国内生産した「マスク」の需要は国内にあるものの、自動車や電機は需要が海外にあり、サプライチェーン改革は容易には進まない。あるメーカーの幹部は「人口が多い、需要が多いという呪縛からはなかなか解き放たれない」と、脱中国の難しさを指摘する。

大手自動車メーカー関係者も「中国の自動車市場の進展で中国のパーツメーカーの存在感も大きくなっている。安くていろいろな部品が調達できる中国製の比率を下げようと思っても、なかなかすぐにはできないだろう」と述べている。

日本のメーカーは、2010―11年の超円高の際に海外移転した企業が多く、根深い円高への恐怖もあるという。さらには、日本の人手不足も懸念材料となる。ある自動車部品メーカーの幹部は「日本への生産回帰についてはやりたくてもなかなかできないのが現状。最大の課題は人手不足と高賃金。特に人手不足は大きな問題」と指摘する。

PwCが4月6日の週に最高財務責任者(CFO)21人へ行った調査によると、サプライチェーンの変更を検討しているのは24%にとどまり、「いいえ」が57%、「分からない」が19%となっている。

問題は新たなフェーズに

新型コロナの感染が拡大し始めた2月20日、経産省は「新型コロナウイルス対策検討自動車協議会」を設置した。サプライチェーンの混乱から日本の自動車生産に影響が出ないように対応するためで、影響が顕在化する前からの立ち上げに、当局の強い懸念が表れていた。

しかし、同協議会の第2回会合が開かれたのは4月30日。「事態は短期で変わる。サプライチェーンを飛び越えて、需要面の問題になった」(別の経産省幹部)という状況で、足元では雇用維持や資金繰りなどへの対応が優先され、サプライチェーン問題への対応どころではなくなっている。

(取材協力:白木真紀 田実直美 山崎牧子 平田紀之 編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「中国製の人工呼吸器は欠陥品」イギリスの医師らが政府に直訴状
・韓国そして中国でも「再陽性」増加 新型コロナウイルス、SARSにない未知の特性
・東京都、新型コロナウイルス新規感染46人確認 都内合計4152人に
・新型コロナウイルス感染症で「目が痛む」人が増えている?


20050512issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦「1週間以内に実現可能」

ワールド

イラン、IAEAの核施設視察を拒否の可能性 アラグ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中