最新記事

投資

混迷の英「ブレグジット」総選挙、予測はAIで 世論調査頼みを見直し

2019年12月9日(月)15時45分

集めるのは「センチメント」情報

NNインベストメント・パートナーズで約3000億ユーロの資産の運用を指揮するバレンティン・ファン・ニューウェンヒュイゼン氏は、有権者のムードを監視するために、マーケットサイキが提供するソーシャルメディア分析サービスを利用している、と語る。

データ調査会社リフィニティブを介して自社商品を提供しているマーケットサイキは、約3000のサイトを追跡し、特定の主題に関連する表現を検索している。

リフィニティブでクオンツ&フィード担当ディレクターを務めるエリック・フィシュキン氏によれば、選挙が近づくと、同社は「政権交代」や「社会的対立」といったパラメーターに関して有権者のセンチメントを追跡する場合があるという。リフィニティブは、ロイター・ニュースの親会社であるトムソン・ロイターが45%の株式を保有している。

「どちらのパラメーターを見ても、ブレグジット国民投票以降で最も高い指標を示している」と同氏は言う。「選挙期間中にこれらの指標が上昇していけば、メディア報道全体のなかで、こうした話題が占める比率が高くなっていく」。

ソーシャルメディア分析を使った選挙結果の試算は、実績が十分にあるとは言えない。だが、ドルトムント大学のヘンリク・ミューラー教授は、緊迫した英国の政治状況下で有権者のムードを推測する場合、これが重要なツールになる可能性がある、と主張している。

ミューラー教授はシンクタンク「ブリューゲル・インスティチュート」に寄稿した論文で、2016年のブレグジット国民投票を前に自身が実施したツイッター投稿に基づくセンチメント分析を紹介、その中では世論調査やブックメーカーのオッズよりも「離脱」に振れる動きがより早く、正確に現れていたことを詳述している。

「英国の状況はユニークで、この種の分析には理想的な環境だ。というのも、社会が『ブレグジット』という1つの問題を軸に二極化しており、ソーシャルメディア上で追跡しやすくなっているからだ」とミューラー教授はロイターに語った。

だが、2018年のイタリア総選挙では、こうした手法で明確な兆候をつかむことはできず、2017年のフランス大統領選挙では、ソーシャルメディア「情報収集」会社の少なくとも1社が、極右マリーヌ・ルペン候補の勝利という誤った予測を示した。

投資家からの需要を受けて、さまざまなブランドのデータ分析を販売する企業が数多く誕生している。たとえば米国のプリデータは、ウェブトラフィックのデータに機械学習アルゴリズムを適用することによって生成した指標を金融関係の顧客に販売している。

プリデータは、ウェブトラフィックの内容よりもその出所と規模を調査しており、11月初めの分析では、英国における新規の有権者登録に関する検索が急増したという結果が出たと述べている。

この動きは、パソコンよりも携帯電話によるウェブ閲覧に支えられたもので、2017年の選挙前の同じような時点に比べ、モバイル端末によるトラフィックが4倍も増えている。

プリデータの研究ディレクター、エリック・ファルコン氏は、「1つ想定可能な仮説として、こうした動きは一般に、若年のウェブ利用者と関連づけられる」と話す。

反ブレグジットに傾きがちな若い有権者の政治参加は、保守党にとってはマイナスであると考えられるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談

ワールド

米FRB、26年に2回利下げ見通し 大手金融機関が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中