最新記事

金融政策

欧州中央銀行、マイナス金利0.5%に深掘り 量的緩和や金利階層化も

2019年9月13日(金)08時23分

欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で、利下げや量的緩和(QE)の再開など一連の追加金融緩和策の導入を決定した。写真右は会見するドラギ総裁(2019年 ロイター/RALPH ORLOWSKI)

欧州中央銀行(ECB)は12日の理事会で、利下げや量的緩和(QE)の再開など包括的な追加金融緩和策の導入を決定した。ユーロ圏成長の下支えや物価の押し上げに向けあらゆる措置を講じる決意を示した。

市中銀行が余剰資金をECBに預け入れる際の適用金利である預金金利を現行のマイナス0.4%からマイナス0.5%に引き下げる。また利下げに伴い金利階層化を導入し、マイナス金利の深掘りが銀行に及ぼす影響を軽減する。さらに11月から月額200億ユーロの債券買い入れを行うほか、銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の条件を緩和する。

ECBは声明で、債券買い入れについて「金利政策の緩和効果が発揮されるよう、利上げを開始するまで必要なだけ継続する」と表明。その上で「インフレ期待が2%弱の水準まで確実に近づくまで金利は現在の水準以下にとどまる見通し」と述べた。

ドラギ総裁は理事会後の会見で「前回の理事会以降に入手した情報によると、ユーロ圏経済の脆弱性は一段と長期化しているほか、顕著な下振れリスクの継続や物価圧力の抑制がうかがえる」と指摘。さらに「このペースでの債券買い入れなら上限引き上げを議論する必要もなく、かなりの長期間継続する余地がある」と認めた。

その上で「すべての手段を検討し、実施する用意があると私が述べてきたことを覚えているだろう。ECBは今日それを実行した」と述べた。

ECBが同日公表した最新のスタッフ予想によると、2019、20年の成長率見通しはともに下方修正された。今年は1.1%、来年は1.2%と予想され、ECBによる追加行動の必要性を示した。19─21各年のインフレ見通しもすべて引き下げられた。

ドラギ総裁は、英国の「合意なき」欧州連合(EU)離脱や米中貿易摩擦激化の可能性はスタッフ予想に勘案されていないとした。

こうした不透明要因が存在する中、ECBの一連の措置がユーロ圏経済支援でどの程度効果を発揮するかは不明だ。

関係筋によると、債券買い入れ再開を巡ってはワイトマン独連銀総裁、ビルロワドガロー仏中銀総裁、クーレECB専務理事の3人が反対し、ECB内でも効果に対する疑念が出ていることが浮き彫りになった。

ドラギ総裁も会見でこれまでに増して財政刺激策の重要性を訴えた。「財政政策が主導する時期に来ている」とし、「財政政策が主要な手段になる必要があると見解が一致した」と述べた。

TSロンバードのマネジングディレクター、シュウェタ・シングー氏は「マイナス金利の深掘りは貯蓄率を押し上げる可能性があり、こうした政策が裏目に出ることが主要なリスク」と指摘。「現時点ではユーロの下落余地もインフレ期待上昇余地も限られている恐れがある」と述べた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、再建へ国内外の7工場閉鎖 人員削減2万人に積

ビジネス

訂正ソフトバンクG、1―3月期純利益5171億円 

ビジネス

日産社長、ホンダとの協業協議「加速している」

ビジネス

英インフレ上振れも、想定より金利高く維持する可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中