最新記事

ビジネス

フランス検察、電通のパートナー企業を捜査 東京五輪含めスポーツビジネスの汚職にメス

2019年8月28日(水)17時26分

スイスに対するフランスの要請は、AMSが電通およびパパマッサタ氏の企業と結んだ契約、さらに国際陸連のスポンサーシップや放映権に関して取引をした企業5社に関連する契約を調べることだった。この5社とは、ロシアのVTB銀行、中国石油化工(シノペック)、韓国サムスン電子、中国中央電視台(CCTV)、アブダビ・メディア社の各企業。仏当局はこれらの契約に基づく支払いについても説明を求めた。

ロイターの取材に対し、スイス検事総長および司法省はフランスから協力要請を受けたことをそれぞれ認めた。だが、詳細な説明はフランス当局に委ねるとした。仏のバン・リュインベック判事、フランス金融検察局もコメントを拒否した。

捜査依頼が言及した5社のうち、韓国サムスン電子はロイターに対し、自社のブランド力向上と国際的なスポーツ振興を目的に国際陸連のイベントのスポンサーになったと説明。資金の横領疑惑については認識していないとした。VTB銀行はいかなる不正行為にも関与していないとし、国際陸連と結んだ契約は「VTBを国際的な舞台でプロモートする効果的な手段であった」と回答。シノペックはコメントを拒否、CCTVとアブダビ・メディアからは返答が来ていない。

国際陸連のようなスポーツ団体は、マーケティングや放映権の管理、スポンサー探しといったノウハウがなく、電通などの広告代理店に業務を委託している。

広告業界で世界第5位の電通にとって、大型スポーツイベントのマーケティングは企業戦略の柱となるビジネスだ。広報活動や市場調査、世論調査も手掛ける電通は、2020年の夏季五輪・パラリンピック東京大会の誘致活動も助言するとともに、マーケティング代理店として協力し、日本国内のスポンサーからは31億ドル(約3300億円)の協賛金が集まった。

電通は安倍晋三首相が率いる与党、自民党とも緊密な関係を保っており、安倍首相の妻、昭恵夫人はかつて電通に勤務したことがある。同党の広報責任者も同様だ。

「完全に一体化している」

電通はスイスのスポーツマーケティング会社、インターナショナル・スポーツ・アンド・レジャー(ISL)が2001年に経営破たんしたことを受け、国際陸連の世界的なマーケティング権と放映権の大半を取得した。電通はその後、ISLの元社員が新たに設立したAMSを国際陸連との契約業務を取り扱うパートナーとした。

電通とAMSに資本関係はないが、国際陸連の弁護士リージス・ベルゴンジーが2017年7月にバン・リュインベック判事に提出した書面によると、電通の中村潔執行役員は2016年11月に東京で行われた会議で、両社は「完全に一体化している」と述べた。同じ会議で中村氏は、国際陸連の当時の最高経営責任者(CEO)オリビエ・ガーズ氏に「AMSは電通だ」とも語っている。この書面は、同弁護士が仏当局に提出した資料の一部で、ロイターが閲覧した起訴状の中で言及されている。

ロイターの問い合わせに対し、電通の河南氏は、そうした発言を中村氏がしたことはないと否定する一方、電通とAMSは「ビジネス上の付き合いがある」と語った。ベルゴンジー氏はロイターに国際陸連へ連絡するよう求めたが、陸連はこの件についてはコメントしなかった。

AMSは電通とのパートナーシップの一環として、一部地域における国際陸連の放映権やマーケティング権を取得するようになった。起訴状によると、AMSは2007年ごろから、いくつかの市場における権利をディアク前会長の息子パパマッサタ氏に移譲、同氏はロシアやアジア、中東におけるマーケティングや放映の契約を結んで数百万ドルを稼いだが、その多くはAMSからのコミッションだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金の強気相場続く、1オンス=2600ドルがピーク=

ワールド

米共和党対中強硬派、華為への販売全面阻止を要求 イ

ビジネス

世界のワイン需要、27年ぶり低水準 価格高騰で

ワールド

米国務省のアラビア語報道官が辞任、ガザ政策に反対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中