最新記事

ビジネス

フランス検察、電通のパートナー企業を捜査 東京五輪含めスポーツビジネスの汚職にメス

2019年8月28日(水)17時26分

一方、起訴状によると、パパマッサタ氏は自分の会社であるパモジ・スポーツ・コンサルティング社を通じてこうした取引を行う一方、国際陸連のマーケティング・コンサルタントとしても支払いを受けていた。

同氏が最大の報酬を得たのは、VTB銀行の代理となっていたロシアのスポーツマーケティング企業、スポルティマ社との間で、同行が2007年から2011年まで国際陸連のイベントをスポンサーするという3000万ドルに上る契約を仲介したときだ。起訴状では、フランス当局が契約内容を分析した結果として、同氏がこれによって約1000万ドルを手に入れたとしている。

VTBはロイターに対する声明の中で、同社が支払った資金を「受領した側」がどう使うかについては、何らコントロールできる立場になかったと述べた。スポルティマはロイターの要請に対し、秘密保持契約があり、コメントできないと回答した。

起訴状にある取引や通信の記録によると、パパマサッタ氏は契約上、AMSが受け取ることになっていた資金の支払いを遅延させ、全額を支払わなかった可能性がある。AMSの資金の大半が電通に渡るため、こうした支払いの遅延や不足は国際陸連が電通との契約で受け取る資金を減少させる可能性があった。電通と陸連との間では電通の収入が一定水準を超えた場合に利益を分配する契約があった。

パパマッサタ氏が在住しているセネガルは、フランス当局が求めている同氏の身柄引き渡し請求と銀行口座の記録提供を拒否している。パパマッサタ氏は今年8月8日、ロイターにメールと電話で回答し、フランス当局による捜査を「認めない」と述べた。

同氏はメールで、「セネガル人は賢くて意志が強いことで知られている。捜査は失敗するに決まっている!!!」と書いている。その一方、自身に対するセネガル当局の捜査には全面協力していると語った。

セネガル司法省のスポークスマンはフランス当局との協力についてロイターの質問には答えていない。

父親のラミン氏も息子と同様、一貫して不正を否定している。同氏は現在、パリで自宅軟禁の措置を受けている。同氏の弁護士はロイターからの問い合わせには答えていない。

「陸連の手が縛られた」

電通と国際陸連は2014年9月、16年間会長を務めてきたラミン氏の任期が終わる1年前に契約を更新した。これによって、陸連のマーケティング権、放映権に対する電通のコントロールが2029年まで延長されるとともに、息子のパパマッサタ氏に利益をもたらす状況が維持される結果となった、と起訴状は指摘している。

「ラミン・ディアクは、こうして退任前にシステムを存続させた」と起訴状は指摘。「(それによって)その後の15年間、国際陸連の手が縛られることになった」。

国際陸連の広報担当者ニコール・ジェフリー氏は、ロイターの問い合わせに対し、セバスチャン・コー新会長のもとで統治体制を改革したと回答。国際陸連は被害者であり、賠償を請求することも可能で、フランス検察当局に捜査を委ねるとした。

フランスのバン・リュインベック判事は今年6月に国際陸連のガバナンスとロシアによるドーピング疑惑に焦点を当てた第一段階の捜査を終了した。ディアク父子は汚職、マネーロンダリング、横領などの背任の罪で起訴された。

他の4人―国際陸連の反ドーピング部門の前責任者であるガブリエル・ドーレ、前財務責任者のバレンティン・バラクニチェフ氏、ロシアの長距離走コーチのアレクセイ・メルニコフ氏、そしてラミン・ディアク氏の前法律顧問のハビブ・シッス氏―も同様に汚職の罪で起訴された。

バラクニチェフ氏は「起訴された罪を私が犯したとは考えていない」と指摘。メルニコフ氏はコメント要請には回答していない。シッス氏とドーレ氏の弁護士も同様に返答してない。ドーレ氏は有罪を認める見返りとして優遇措置を求めている。公判の日時はまだ決まっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

リーブス英財務相、広範な増税示唆 緊縮財政は回避へ

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中