最新記事

米中貿易戦争

トランプはアップルに中国撤退を「強制」できるか?

2019年8月28日(水)09時12分

中国政府が、米国からの輸入品に報復関税を課すと発表すると、その数時間後にトランプ米大統領は米国企業に対して「事業を米国に戻し、米国内で生産することを含めて、中国の代替先を模索し始める」よう命じた。写真は仏ビアリッツで開かれたG7会議に出席したトランプ氏。代表撮影(2019年 ロイター)

中国政府が23日、米国からの輸入品に報復関税を課すと発表すると、その数時間後にトランプ米大統領は米国企業に対して「事業を米国に戻し、米国内で生産することを含めて、中国の代替先を模索し始める」よう命じた。

この発言が持つリスクは大きい。なぜならロディアム・グループによると、米企業は1990─2017年に中国へ総額2560億ドルも投資してきたからだ。中国企業の対米投資額は1400億ドルだった。

一部の米企業は、貿易摩擦発生の1年余り前に中国から事業を移転させている。しかし事業や生産設備を中国から完全に引き揚げるには相当な時間がかかるだろう。さらに航空機やサービス、小売りなどの米企業の多くは、規模が非常に大きいだけでなく成長を続けている中国市場を手放すことを拒むのは間違いない。

米国が中国のような中央政府が統制する計画経済ではない以上、トランプ氏は企業にどうやって強制力を働かせるだろうか。

以下にトランプ氏が議会の承認を得ずに行使できるいくつかの手段を示した。

さらなる関税

トランプ氏は既に実行中の措置の強化、つまり関税を一層引き上げ、企業がもはや中国事業の採算を取れないようにして、実質的に撤退に追い込む可能性がある。

23日には既に25%の追加関税を適用している2500億ドル近くの原材料、機械、最終品などの中国製品について、10月1日から税率を30%にすると表明した。9月1日から12月15日にかけて発動予定の追加関税第4弾の税率も10%から15%に引き上げる。

関税強化は、中国製品の輸入価格を押し上げるほか、中国で合弁生産を手掛けている米製造業の痛手にもなる。

非常事態宣言

トランプ氏は、1977年に制定された国際緊急経済権限法(IEEPA)に基いてイランのように中国を国家非常事態宣言の対象とすれば、さまざまな制裁を科すことができる。

非常事態宣言後にはトランプ氏は、個別企業はいしは経済セクター全体さえ活動を阻止できる広範な権限を得る、と元政府高官や法律専門家は解説する。

バンダービルト・ロースクールの国際法務研究プログラムのディレクター、ティム・マイヤー氏によると、トランプ氏は例えば中国による米企業の知的財産窃取が国家非常事態の要件に該当するとみなし、米企業に対して中国のハイテク製品購入などの商取引をしないよう命じてもおかしくない。

実際にトランプ氏は今年、不法移民の流入を非常事態と解釈し、メキシコの全輸入品に制裁関税を課すと示唆した。

過去には1979年にカーター政権がイラン政府所有の資産を米国の金融システムで取引するのを禁じた例がある。

一方、元米国務省高官で制裁問題を担当したピーター・ハレル氏は、IEEPAの発動は米経済に意図せざる被害をもたらす恐れがあると警告する。米政府当局者としては、中国が対抗措置を講じてそれが米企業にどんな影響を及ぼすかを考慮しなければならないだろう。

ハーバード・ロースクールのマーク・ウー教授(国際貿易)は、IEEPAを発動した場合、米国内で訴訟を起こされる事態も想定されるとの見方を示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中