アマゾンが支配する自動化社会というディストピア

REPLACEABLE YOU

2019年7月5日(金)16時15分
エレン・ルペル・シェル(ジャーナリスト)

ここでの「ゴミ」は人間の犯す過失のこと。しかし、ロボットは実に正確だ。特に反復的なルーティン業務が得意。リシンク・ロボティクス社の単腕型産業用ロボットのSawyerを見れば、どれほど多くの作業をこなせるか分かるだろう。

magt190705-auto01.jpg

簡単にプログラムでき、どんどん仕事をこなす産業ロボットSawyer COURTESY OF RETHINK ROBOTICS

「競争優位」の幻想が崩れる

Sawyerは見た目も人間らしい。スクリーンにアニメーションの顔が出るし、足の位置にタイヤが付いている。サルのような感じの腕をつかんで動きを教えると、反復的な動きを学んで仕事を片付けてくれる。

人間とほとんど同じくらい素早くモノを感知し、滑らかに動く。従来の産業用ロボットは高給取りのプログラマーがコードを書く必要があったが、Sawyerなら誰でも5分以内でプログラムできる。開発者のロドニー・ブルックスの試算によると、Sawyerの稼働コストは時給4ドルに満たない。

雇用の将来にはロボットが大きな影を及ぼすが、議論は間違った予測に左右されているようだ。自動化で労働者が仕事を奪われることはないと、最近まで多くの経済学者が考えていた。

労働者は機械に適した作業からは離れるが、経済学が説く「比較優位」の原則によって、多くの分野で優位を保つと考えられていた。この論理によると、私たちはテクノロジーによってお払い箱にされるのではなく、より危険の少ない、よりやりがいのある仕事に就く──つまり人間らしく生きる自由を得るはずだ。

全米高速道路輸送安全局(NHTSA)は16年に、自動運転車のソフトウェアを「運転者」として扱い始めた。全国のタクシー、トラック、バス、ウーバーなどの職業運転者合計410万人は解雇予告を告げられたようなものだ。理論的には、彼らは運転の仕事から解放され、ほかの仕事に就ける。例えばアマゾンの倉庫の仕事だとか。しかし倉庫もどんどん自動化されていく。経済学者が「半熟練労働者」と呼ぶ人たちの大多数が働いていた職場はどこもそうだ。

彼らこそがアメリカの中流階級を支えてきた人たちだ。あなたが娘の結婚式で着るスーツを作ったときに寸法を測ってくれた気の利くデパート店員、結婚式前のディナーのために丁寧に肉を切ってくれた気前のいい肉屋、新婚旅行の計画を手伝ってくれた旅行代理店の人もそうだ。

もちろん、人間の労働者は疲れたり機嫌が悪くなったり、気を散らしたりする。とんでもないミスも犯す。機械は正確だし、偏見を持たない。しかも大量のデータを蓄積できる。

グーグルはアメリカだけでも毎分360万件の検索を実行している。スパム業者は毎分1億件のメールを送り、スナップチャットは毎分52万7000枚の写真を送信し、ウェザー・チャンネルは毎分1800万件もの天気予報を提供する。これらのデータを集め、体系化し、分析すれば、ほとんどあらゆる高次元のタスクに応用できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中