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コストゼロ&シェアの時代のマネタイズ戦略

2015年11月19日(木)16時20分
長沼博之(イノベーションリサーチャー、経営コンサルタント、Social Design Newsファウンダー)

 今年は、持ち物を最小限に抑える「ミニマリスト」という概念が広く注目を集めたが、これは一部のマニアックな人達から好まれる概念ではなく、21世紀の基本コンセプトとなるだろう。

「買う」という行為の前に、「作る」「もらう/あげる」「交換する」「借りる」といった行為がくる。情報密度が高く取引コストが極限的に下がっていく世界の中では、物々交換経済、贈与経済をも包含したシェアリングエコノミーがゆっくりと拡大するのである。

 更に、最も幅広く実施される消費形態は「使用価値にアクセスする」という概念である。例えば、燃費の安い電気自動車や自動運転車が一般的になる2020年代以降は、クルマは所有するのではなく、必要な時だけ使うという利用形態が広がる可能性が高い。

 つまり利用者は、その用途、状況にあわせて最も適切な車種をその場に呼び出すようになる。海沿いをドライブする時にはオープンカーを、夫婦2人水入らずで食事に行く時には優雅なセダンを、家族でアウトドアに出かける時には4輪駆動のSUVを、そして日常のちょっとした買い物の際には軽自動車をと、その都度呼び出して使うわけである。

 それは、現代のカーシェアリングのような細々とした手続きさえないサービスで、クルマを借りに行く手間や、返しにいく面倒なプロセスが必要なくなる可能性が高い。つまり、スマホやウェアラブルデバイスで簡単瞬時にクルマを予約でき、指定する場所までタクシーのように迎えに来てくれるのだ。また目的地までクルマが到着したら、そのクルマは次に使う顧客に最適にマッチングされていくため、クルマを返しに行く必要がない。

 まさにこの利用形態は、"クルマの使用価値にアクセスする社会"である。あらゆるプロダクト、サービスにおいてこのような消費形態が主流になるはずだ。

再現性ではなく、一回性によって稼ぐ時代へ

 さて、このような世界の中で、ビジネスはどう進化していくのか。物々交換経済、贈与経済までも包含したシェアリングエコノミーが拡大すると「貨幣経済」の立ち位置は厳しくなるのではないか、と思われるかもしれない。つまり、ビジネスにおけるマネタイズの議論である。

 現代において、もはや意識することもなく空気のように当たり前になった世界観は、科学的世界観である。あまねく全てのもの、生活におけるあらゆる事柄は、客観的視点に立つことで数値化できると考えるこの世界観は、普遍性、再現性を評価する社会を生み出した。近代におけるビジネス社会も、その影響を丸ごと受けており、ここでは「再現性」を「生産性」の概念で語り、それは常に会社の利益と直結していると考えられてきた。

 しかし、再現性は、これからは必ずしも高い価値につながるとは限らない。なぜなら、再現可能な価値は、常に「コピー」の可能性を含み、強烈な価格低減圧力にさらされていくからだ。それは、YouTubeによって音楽業界が陥った危機と同じである。

 今、ビジネス社会に変化が訪れている。それは「一回性の価値」の希求だ。分かりやすく言えば、人生でたった一度しか起こらない何か、を価値の担保とする志向性である。

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