最新記事

日本経済

米議会演説から「アベノミクス」が消えたわけ

訪米の直前、安倍晋三の経済政策は米政府に酷評されていた

2015年5月8日(金)15時15分
岩本沙弓(経済評論家)

封印されたマジック 「Buy My Abenomics」は過去の話に Gary Cameron-REUTERS

<岩本沙弓さんの連載コラム『現場主義の経済学』はこちら>

 安倍晋三首相の公式訪米について、総括は早々に冷泉氏が寄稿をされておられるし、日米安保に関わる問題は適任がいらっしゃるので差し控えるとしましょう。というのも、日本のメディア・リテラシーがいつまでたっても成熟しないのは専門家以外の有識者(あるいは有識者と思しき人たちも含めて)が専門分野以外についてあれこれ言及することに起因する部分が多いのではないかと思うからです。

 その筋の専門家として著名で、先鋭な分析をされたとしても、逆にそれがあるからこそ他分野での分析もまた的確なはず、という思い込みはされやすいものです。様々な評価や発言が自由にできることは民主主義の大原則ですから、個人が自由な発信をすることを否定しているわけでは全くありません。ただ、ご本人に悪意はもちろんのこと、世論誘導の意図も全くなかったとしても、専門分野外の些細な分析のズレがいつの間にか一人歩きすることはままあります。それがやがては全く見当違いの世論の形成まで行きついてしまうことを、経済分野においては随分と見てきました。

 そうした傾向に一石を投じるためにも、要するにわかっていないことは語らないというのは、発信者に最低限求められる責任だろうと自戒も含め思う次第です。というわけで、今回の訪米についてはあくまでも専門分野である経済面に特化します。最大の焦点は、あれほどまで推奨していたはずの「アベノミクス」なるキーワードがなぜ共同会見でも米議会演説でも一度たりとも登場しなかったのか、ということでしょう。

「アベノミクス」の3本の矢に関して、今さら触れる必要はないとは思いつつ、念のため。第一の矢は「大胆な金融政策」、第二の矢は「機動的な財政政策」、第三の矢は「民間投資を喚起する成長戦略」となっています。首相官邸HPによれば第一と第二の矢が放たれた結果、アベノミクスが功を奏して株価を筆頭に「多くの経済指標は、著しい改善」を見せているとのこと。そして、本丸とされる第三の矢も順次放たれている状況で、「その効果も表れつつあります」とのこと。であるなら、2013年9月にニューヨーク証券取引所で大々的に「Buy My Abenomics」とPRしたように、今回の訪米でも大いにその成果をアピールしても良さそうなものです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中