最新記事

日本経済

米議会演説から「アベノミクス」が消えたわけ

2015年5月8日(金)15時15分
岩本沙弓(経済評論家)

 アベノミクスが登場しなかった理由については、訪米直前に米財務省から発表された為替報告書にヒントがあります。為替報告書というのは毎年4月と10月の半期に一度公表されるものです。ワタクシが為替取引をしていた現役の頃には、この報告書の中で米国から為替操作国の認定を受けそうだとの事前予測だけでも当該国の為替レートが動いたものですから、毎回その内容を注視していました。現在は各国のマクロ経済運営について、米政府の見解が端的に示される点で重宝しています。

 報告書の概略ではグローバル経済の成長力の弱さを指摘し、その主な要因として主要国のマクロ経済政策が包括性に欠けることを挙げています。国内需要の活性化の余地があるにもかかわらず、適切な政策を実行してない国として名指しされていたのが日本、ドイツ、中国、韓国です。

 日本のマクロ経済政策については、財政、金融、構造改革の3つの施策を遂行することによる経済回復、特に国内需要の支援を訴えています。つまり本来の目的である実体経済への働きかけのために、マクロ経済政策をバランスよく実行すべしという提言でもあります。より具体的な3本の矢への評価は次の通りです。

 第一の矢について、適切な財政政策や構造改革とセットになっていない「金融政策への過度の依存は、日本の回復とデフレからの脱却をリスクに晒す」とし、金融政策の一人歩きが過ぎると副次的な負の影響をもたらすと警鐘を鳴らしています。第二の矢については、消費税増税によって民間消費の下落、賃金低下など実体経済が低迷していることに言及し、2015年10月の消費税増税は見送りでも2015年は依然として緊縮財政であり、拙速な財政再建をすべきでないと言い切っています。財政再建の行き過ぎが日本経済を疲弊させ、第三の矢の成長戦略も脅かしかねないとの懸念も示しています。

 第一の矢とも関連することではありますが、大量の資金供給をすれば通貨価値が低下するため円安となり、輸出企業へのメリットとされます。この点について、「今後は、政府は輸出に過度に依存することを回避」する必要ありと明言。日本の長期的な成長を高めるために必要なのは「意味のある構造改革」への取り組みであり、それを強化しながら内需主導の回復をサポートするような、バランスのとれたマクロ経済政策のアプローチです。第三の矢につなげるためには輸出ではなく、外需よりも内需へシフトする必要がるにも関わらず、それが不十分なのは政策に偏重があるためとの指摘です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中