最新記事

サイトガバナンス

フェイスブックが民主主義を捨てる日

ユーザー投票制度を撤廃しようとする試みを阻止しユーザーの権利を守るには投票率30%=3億人が必要だ

2012年12月5日(水)18時27分
ウィル・オリマス

最後の投票? ザッカーバーグ帝国を阻止できるか。利用規約等の改定案に関するユーザー投票は12月10日まで Beck Diefenbach-euters

 とうとうフェイスブックが民主主義を捨てるらしい。

 現在の利用規約では、規約の改定に際してはユーザーの意見を聞き、一定の条件を満たせば全世界のユーザーの投票によって採否を決めることになっている。しかし今、この投票制度を廃止するという規約改定が提案されているのだ。

 理論上は、今すぐ全世界のユーザーがこの提案にNOを言えば、投票権を守ることができる。だが、そんなことは起きっこない。みんな忙しくて、細かい規約の修正など気にしないからだ。もちろんフェイスブック側は、それを百も承知だ。

 この仕組みは、09年春に発表した利用規約の改定案がユーザーの猛反発を招いたことをきっかけに導入された。重要な規約改定に際しては、まずユーザーの意見を募る。そして寄せられたコメントが7000件を超えた場合には、全会員を対象とした投票を行う。投票率が30%を超えた場合、フェイスブック側は投票結果に従わねばならない。

 ただし投票の対象となるのは利用規約の変更だけで、新しい機能の追加などはユーザー投票の対象にならない。

 過去に投票まで持ち込まれた例は2回あるが、どちらも30%の投票率には達しなかった。今年6月の投票に参加したのは34万2632人。かなりの数だが、「30%超え」には約3億人を動員する必要がある。

 桁が違い過ぎて話にならない。とはいえ、もっと投票率が上がるような仕組みを考えろと、文句を言う気にもなれない。

量より質の新制度を提案

 だから投票制度をやめたいという提案にも、誰も驚かなかった。同社の広報担当副社長エリオット・シュレージの声明文には、こうある。

「現在の投票システムでは......コメントの質より量がものをいう結果となっている。なので、現在のシステムから投票の部分を廃止し、より意味のあるフィードバックとユーザー参加をもたらす仕組みに移行したい」

 今後は「最高プライバシー責任者ヘ質問。」というコーナーを設け、寄せられた質問には責任者のエリン・イーガンがウェブキャストで回答するという。そうすればフェイスブック側は、無意味なコメントの洪水に悩まされずに済むわけだ。

 この提案に対しては、既に批判の声が上がっている。IT業界の有力ブログ「テッククランチ」は、投票実施に必要なコメント数を増やして安易に実施しにくくするとか、ユーザー全員の投票ではなくランダムに選んだ「有識者会議」の判断を仰ぐような仕組みが望ましいと提案している。

 悪くはないが、現実的とは言えない。そもそも、時価総額520億ドルの上場企業が重要な問題の決定権を外部の人間に譲るとは考えにくい。それに、有識者の集まりなら今でも立派な「取締役会」がある。

 さあ、全世界10億人の会員諸君、もしもフェイスブックにも民主主義が必要だと思うなら、どんどんコメントを書こう。運が良ければ投票に持ち込める。コメントの受付期限は、米東部時間で11月28日の昼までだ。

 もしも投票権を守るために3億人が行動を起こしたら、それは素晴らしいことだ。でも、まずあり得ない。だから私たちとしては、わずか3年でもフェイスブックが民主主義の実験に取り組んだことに感謝するしかないのかもしれない。

 そして、覚えておこう。たとえ民主主義を捨てても、フェイスブックは全体主義国家ではない。だから私たちには自由がある。そう、嫌になったら、さっさと縁を切る自由だ。

© 2012, Slate

[2012年12月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クックFRB理事の後任候補、すでに選定中=トランプ

ビジネス

米8月CB消費者信頼感指数97.4に低下、雇用・所

ビジネス

アップル、9月9日に秋のイベント 超薄型iPhon

ワールド

クックFRB理事、トランプ氏による解任巡り提訴へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中