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アメリカ経済

バーナンキは史上最もクリエーティブなFRB議長

QE3はあるのかないのか──金融危機を乗り切ったバーナンキの大胆な手法から占う

2012年3月27日(火)13時03分
マイケル・トマスキー(米国版特別特派員)

確固たる知識 大恐慌の過ちを知りつくし、常識にとらわれず行動する Jonathan Ernst-Reuters

 通貨の番人FRB(米連邦準備理事会)は鉄面皮。愛をささやくバレンタインデーとはおよそ無縁の存在だ。

 でも今年は違った。ツイッターの世界では、誰かが「FRBにバレンタインのメッセージを送ろう」という企画を立てた。するとユーモアも愛も知らないFRBに対し、「今の長短金利差を見てるだけですごく興奮しちゃう」といったメッセージが数多く寄せられたそうだ。

 もちろん、普段のFRBにジョークは通じない。バレンタインデーの少し前にも、連邦議会の共和党議員たちはFRB議長のベン・バーナンキに厳しい質問を浴びせていた。

 まだ見ぬインフレについてしつこく問いただしたのは、下院予算委員会のポール・ライアン委員長(ライアンを含め、共和党議員たちはインフレの襲来を確信している)。別の共和党議員は、FRBの発表した住宅市場に関する報告書が議会の権限を侵害していると非難した。

 この程度ならお笑い草だが、共和党にはバーナンキ率いるFRBを本気で毛嫌いする超保守派もいる。共和党の大統領候補指名を争うロン・ポールなどは、「FRBを廃止しろ!」とまで叫んでいる。

 だがひとたび醜い政治の世界を離れれば、まったく異なる評価が聞こえてくる。
バーナンキは政治家たちの反発に遭いながらも、大胆かつ意表を突く政策を打ち出してきた、という声だ。ジョー・バイデン副大統領の首席経済顧問だったジャレッド・バーンスタインに言わせれば、「これまでで最もクリエーティブなFRB議長」かもしれない。

 06年にジョージ・W・ブッシュ大統領からFRB議長に起用された当時のバーナンキは、典型的な保守穏健派の共和党支持者だった。学者肌で慎重過ぎる、マクロ経済学には通じているが現実の市場を理解していない、という指摘もあった。政治の駆け引きにも疎かった。そんななか、アメリカをあの金融危機が襲った。

 バーナンキが事態の深刻さに気付くのが遅過ぎたという批判も(主として左派陣営には)ある。「02年からFRBの理事だったのに、07年の夏以前に住宅バブルの崩壊を予想できなかったとは言わせない」と語るのは、リベラル派のエコノミストで、住宅バブルの崩壊を予想していた数少ない専門家の1人であるディーン・ベーカーだ。

 だが多くの専門家は、もう少し同情的だ。「既存のルールブックは役に立たなかった」と、コロンビア大学のマイケル・ウッドフォードは言う。

学者時代の研究を武器に

 この未曾有の危機に際して役立ったのは、学者時代に行った大恐慌の研究だった。「1930年代のFRBは極めて保守的なアプローチを取り、そして失敗した」と、バーナンキはかつて本誌に語っている。

 だからこそ彼は、民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領の見せた「大胆に行動し、常識的な処方箋にとらわれない」姿勢(金本位制からの離脱や預金保険の導入など)を高く評価するようになった。

 そしてバーナンキが今回の危機に際して出した大胆な処方は、金利の引き下げと量的緩和によってマネーサプライを増やすことだった。

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