最新記事

ネット

ハッカーvs米政府、サイバー戦争に突入か

「ネットの自由」を制限する法案をめぐり、あのアノニマスが全面対決を宣言

2012年2月1日(水)15時06分
ジェブ・ブーン

臨戦態勢 ハッカー集団アノニマスは「ブラックアウト作戦」の決行を予告 Stefano Rellandini-Reuters

 反対派に言わせれば、米議会で議論されているオンライン海賊行為防止法案はネット空間の自由を侵害し、著作物の自由かつ公正な利用とプライバシーを大きく損なう悪法だ。既にハッカーグループは、米政府の関係者とウェブサイトに攻撃を仕掛けると宣言している。

 下院司法委員会で現在審議中の法案は、司法省と著作権者にかつてなく大きな権限を認める内容。法案が成立すれば、著作権侵害と認定されたサイトの閉鎖やユーザーの摘発が可能になる。採決は年末に予定されていたが、議事進行の遅れにより年明けに延期された。

 現時点で、法案は下院で過半数の賛成票を得て上院に送られる可能性が濃厚だ。しかし反対派は、採決延期で生まれた時間的余裕を活用して廃案に追い込もうと躍起になっている。

 反対派にはグーグル、ヤフー、フェースブック、ツイッターなどのネット企業のほか、リベラル系シンクタンクのブルッキングズ研究所、米自由人権協会(ACLU)やヒューマン・ライツ・ウォッチのような人権団体も名を連ねている。

 法案が成立すれば、「イノベーションを殺す訴訟が多発する」と、反対派は主張する。多くの民主党議員も同意見だ。

 一部のハッカーグループは、関係者への手紙攻勢など従来の陳情活動では手ぬるいとして、もっと直接的な行動に訴えると警告している。チュニジアとエジプトの政変の際、政府系サイトをダウンさせて名を上げたハッカー集団アノニマスは、「ブラックアウト作戦」を準備中だと明言。法案成立阻止のために全米規模での抗議行動を呼び掛けた。「われわれはインターネットを検閲しようとする試みを阻止するため力を結集させる」

 アノニマスはハッカー予備軍への招集指令ではないとしているが、彼らが「抑圧」と見なす行為には報復すると警告した。「もし米議会が法案を通したら、そのツケを払わせてやるぞ」

議員の個人情報を公開

 アノニマス誕生の母体となった悪名高いネット掲示板4chanには、戦闘的な書き込みがあふれている。ユーザーは下院司法委員会のライブ動画を見ながら、法案が可決された場合の報復手段を議論している。

 アノニマスやラルズセックのようなハッカー集団は、以前にも政府系サイトを攻撃した前科がある。両グループは11年夏、メンバーとみられるハッカーの逮捕に抗議してCIA、FBI、上院などのサイトに過去最大の「ハッキング祭り」を敢行。内部告発サイト「ウィキリークス」への寄付を妨害したとしてソニーなどの企業も攻撃した。

 こうした行為の目的は国家の安全保障を脅かしたり、クレジットカードの情報を盗むためではないと、ハッカーたちは主張する。アノニマスが好むDDoS攻撃(分散型サービス妨害)は、サイトのサーバーを一定期間ダウンさせて企業や政府機関の面目をつぶし、場合によっては金銭的損害を与えることを目的としている。
彼らは関係者の個人情報を勝手に公開することもある。法案を提出したラマー・スミス下院議員(共和党)は、自宅と事務所の住所と電話番号、税金関係の書類のような個人情報を4chanなどにさらされた。

 多くの4chanユーザーは、法案支持派への嫌がらせをどんどんやるべきだと主張する。一方、この種の行為は個人情報を守るためにも法案を成立させるべきだという議論を助けるだけだと警告するユーザーもいる。

 ハッカーグループは、この法案を自分たちに対する直接の脅威と捉え、一般のネットユーザーにも幅広く協力を呼び掛けている。この戦いはアノニマスにとって、これまでで最大のサイバー戦争になるかもしれない。

[2012年1月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、5対4の僅差 12月利下げの

ビジネス

ユーロ圏小売売上高、9月は前月比0.1%減 予想外

ビジネス

日産、通期純損益予想を再び見送り 4━9月期は22

ビジネス

ドイツ金融監督庁、JPモルガンに過去最大の罰金 5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 8
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 9
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中