最新記事

高速鉄道

誇大宣伝だったアメリカ版新幹線

オバマ肝煎りの全米高速鉄道網は技術的にも採算的にも見かけ倒し。鈍行より遅い路線まであった

2012年2月3日(金)15時01分
ウィル・オリマス

期待の星だったカリフォルニア新幹線(完成予想図) California High-Speed Rail Authority

 全米の大都市を結ぶ高速鉄道網の夢は、夢のままで終わりそうだ。

 オバマ米大統領が景気刺激策の一環として、「全国規模の高速都市間旅客鉄道サービス計画」に80億ドルを投じると発表したのは昨年1月。高速鉄道ブームが一時的に盛り上がったが、実現の可能性は低くなる一方だ。共和党が主導権を握る米下院は先月、来年度の予算案で高速鉄道関連の支出をゼロにした。

 オバマ政権は、高速鉄道を最も必要とする重点路線を決めるのではなく、こちらに5億ドル、あちらに5億ドルとばらまいた。全米にまたがる10路線(距離は約160〜960キロ)はちぐはぐな寄せ集めにすぎない。さらに問題なのは、まったく「高速」ではないことだ。

 ヨーロッパの「高速」鉄道の定義は時速約250キロ以上(既存の線路を改良する場合は約200キロ以上)。ところが、例えばウィスコンシン州を中心とする路線はミルウォーキーとマディソン間の最高時速が約177キロ。オハイオ州に至っては最高時速約127キロで、シンシナティとクリーブランド間は特急でなければ車より遅い。

 それでもロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶカリフォルニア州の路線は、まだ見込みがありそうだった。最高時速は約354キロと正真正銘の高速鉄道。人口700万人以上の2つの大都市は、車で行く気にならないほど離れているが(渋滞なしで6時間)、飛行機は何かと不便だ。計画は10年以上前に始動しており、問題は資金不足だけのはずだった。

インフラ整備は先送り

 実際、カリフォルニアのケースはオバマの景気刺激策の格好の見本となりそうに思えた。建設に伴う雇用創出は、今のアメリカにどうしても必要だ。

 西海岸では高速道路の渋滞だけでなく、サンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ空路の混雑も深刻だ。高速鉄道を導入しないなら、新しい高速道路や空港を建設しなければならない。温室効果ガスの排出を制限する州条例を考えても、電気で走る鉄道ははるかに環境に優しい乗り物だ。しかもオバマが高速鉄道網計画をぶち上げる前に、建設費として100億ドルの州債発行が住民投票で承認されていた。

 ただし、カリフォルニアの計画は最初から誇大宣伝だった。利用者の予測は年間1000万人で、健全な営業利益が見込めるという触れ込みには、賛成派さえ懐疑的だった。

 州の鉄道当局は先月、工事期間は当初計画の2倍の長さに及び、利用者はもっと少なく、運営コストは2倍に上るだろうと認めた。今月初めに発表された世論調査では、約3分の2が住民投票のやり直しを求めている。

 高速鉄道網の推進派には、反対派ほど揺るぎない決意があるわけではない。オバマと議会民主党は医療保険制度改革の違憲訴訟など、目先の問題に追われている。全米の古びたインフラ整備は、次の世代に先送りされつつある。

 高速鉄道網が壮大な期待外れに終わることを歓迎すべき理由があるとしたら、アメリカが導入する技術が既に時代遅れになっていることだ。オバマ政権の計画どおりに実現したとしても、全米の鉄道網は日本や中国に比べて貧弱で旧式のままだろう。中国では既にリニア式鉄道が運行され、日本でも本格実用化へ向けた試験走行が続いている。

 リニアは開発途上で、建設コストはべらぼうに高い。しかしアメリカが交通インフラの再建を真剣に検討する頃には、大幅に安くなっているかもしれない。それまでなら、まだ時間はたくさんありそうだ。

[2011年12月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米イーベイ、第2四半期売上高見通しが予想下回る 主

ビジネス

米連邦通信委、ファーウェイなどの無線機器認証関与を

ワールド

コロンビア、イスラエルと国交断絶 大統領はガザ攻撃

ワールド

米共和党の保守強硬派議員、共和下院議長解任動議の投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中