最新記事

中国経済

IMFスキャンダルで中国に漁夫の利

新興国の支持を取り付けたい後任候補の大本命、ラガルド仏財務相が中国に甘い約束を連発

2011年6月10日(金)16時06分
キャスリーン・マクローリン

大盤振る舞い 北京を訪れたラガルド仏財務相は中国に発言権の拡大を約束した(6月8日) Reuters

 IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事による性的暴行疑惑を機に始まったIMFトップの後任選びレースのおかげで、多大な恩恵を受けそうな国がある。中国だ。

 新リーダー誕生が間近に迫った今、以前からIMF内での影響力を強めていた中国はさらに強大な権限を手に入れることになりそうだ。専務理事選への出馬を表明しているクリスティーヌ・ラガルド仏財務相が支持獲得のために新興国を歴訪したことで、支持獲得のために新興国を歴訪。途上国のIMFへの影響力が増大していることが一段と浮き彫りになった。

 今週、中国を訪れたラガルドは、中国の経済発展を称賛し、新興国のプレゼンスを高める改革を続行すると約束。中国のIMFでの議決権拡大を支持し、今後も新興諸国の発言力を増大させる改革を続ける意向を表明した。中国訪問終了時の記者会見では「IMFが今後も正当な存在であり続けるには、世界における各国経済の強さや重みを正確に反映する必要がある」と語った。

中国人エコノミストを副専務理事に抜擢?

 中国のアナリストらは、ラガルドが次期専務理事に選ばれら、中国人エコノミストでIMFの特任顧問を務める朱民を副専務理事に起用して、中国重視の約束を守るべきだと主張している。ラガルドは、今は自身のポスト問題に集中したいとしつつも、「彼はIMFの運営における重要な役割に十分適していると思う」と語り、朱を起用する可能性を示唆した。

 これこそ中国側が聞きたかったメッセージだ。それでも、中国指導層は今のところ、ラガルド支持を公言しておらず、2008年の経済危機以降訴え続けてきた新興国の権限拡大の問題に全力を傾けている。

 中国人エコノミストの湯敏に言わせれば、IMFのトップは出身国の国益ではなく加盟国を代表する存在であるべきだが、同時に象徴的な意味合いも大きい。「中国に選択権があるのなら、朱民を専務理事に推すだろう」と、湯は言う。「不可能な話だが」

 ラガルドは記者会見で、自身が「欧州の候補者」だという指摘に反論した。「IMFは誰のものでもなく、加盟する187カ国のものだ。IMFの運営は特定の地域や国に属するものではない。だからこそ、選考プロセスはオープンで透明性が高く、候補者個人の資質に基づいて行われるべきだ」と、ラガルドは語った。「同様に、国籍によって立場を追われたり、罰を受けるのはおかしい」

 ラガルドは中国人民銀行総裁らとの会談を建設的なものだったと表現した。中国はラガルド支持を公にしていないが、国営メディアは彼女の政策を非公式に支持する意向を示唆している(ラガルドは訪中に先立ってインドも訪問したが、公に支持を取り付けることはできなかった)。
 
 一方、ラガルドと同じ時期に北京を訪問したIMFのジョン・リプスキー専務理事代行は、中国に批判的な立場を取っている。リプスキーは、中国経済には依然として明るい材料はあるものの、人民元の過小評価や財界への厳しい規制といった大きな問題が残っていると指摘。中国は今や世界経済に不可欠な存在であり、製造業への依存からの脱却を成功させないと、厄介な問題になりかねないとしている。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

原油先物2%下落、2週間ぶり安値 OPECプラス増

ワールド

拡大BRICSが外相会合、貿易保護主義に懸念表明 

ワールド

米、1カ国と貿易協定で合意と商務長官 国名は明かさ

ワールド

米、ウクライナ紛争終結へ進展なければ仲介役から退く
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中