最新記事

電子書籍

グーグルeBooksは本当にオープンか

待ちに待った参入は歓迎するが、口先だけの「オープン」さよりもっと機能で勝負して欲しかった

2011年3月1日(火)17時27分
ファハド・マンジュー

期待はずれ Google eBooksの「書棚」には新作数十万点、旧作300満点が並ぶが Photo Illustration by Justin Sullivan/Getty Images

 待ちに待ったグーグルの電子書店eBooksがオープンした。でも、アマゾンのそれとどこが違うのか。価格設定や割引セールのタイミングは、どちらもほとんど同じ。有力出版社はどちらとも組んでいるから、品ぞろえもほぼ同じだ。

 端末の性能も期待外れ。アマゾンのキンドルにはある「しおり機能」も辞書機能もない。

 グーグル自慢のオープンさはどうか。同社は「読書体験を自由に」するとうたっていた。だからユーザー名とパスワードさえ登録すれば「どの端末でも閲覧可能」と売り込んでいた。

 私は電子ブック市場の開放をずっと待っていた。2年前にはキンドルがこの市場をほぼ独占していて、ユーザーを強引に囲い込んでいた。今は状況が変わりつつあるが、当時はキンドル用の電子ブックはキンドル公認端末でしか読めなかった。

 では、グーグルの参入で市場はオープンになったか。いや、グーグルの言う「オープン性」は政治家の言う「超党派」や石油会社の言う「環境配慮」と同じで、中身がない。

 グーグルの電子ブックには(アマゾンのもそうだが)デジタル著作権管理(DRM)がかかっており、著作権の存続している本の回し読みや転売はできない仕組みになっている。

 ただしグーグル書店で買った本は、アドビの「コンテンツサーバ4」に対応する端末ならどれでも読める。ソニーリーダーでもiPadでもOKだ。

 では互換性でグーグル端末はキンドルに勝ると言えるのか。いや、今はアマゾンも互換性の向上に取り組んでいる。電子ブックをウェブ上で閲覧できる「Kindle for the Web」も、間もなく提供される予定だ。

「開放性」は絶対必要?

 ただし、キンドル書店で買った本はアドビの方式を採用した端末では読めない。グーグル書店で買った本も、キンドル端末では読めない。キンドルが市場の約半分を牛耳っている現状からすれば、グーグルは苦しい。

 グーグルの電子ブックは一部の一般書店でも買える。だが、これも開放性の証拠にはならない。どこで買っても値段は同じ。売り上げの一部は書店に入るが、「Kindle for the Web」でもその点は同じだ。

 筆者とてグーグルを責めるつもりはない。著作権保護を求めているのは出版界だし、グーグル用の電子ブックをキンドルで読めないのはアマゾンの排他的な方針のせいだ(かつてのアマゾンはもっと「オープン」だったと思うのだが)。

 しかし、グーグルも大して「オープン」ではない。もちろん、何でもオープンにすればいいとは限らない。

 グーグルは携帯電話向けOS「アンドロイド」の発表に当たり、アップルのiPhoneよりも「オープン」だと宣伝した。正当な主張である。グーグルはOSのソースコード(基本設計情報)を公開し、端末メーカーに加工を許し、アプリ配信にも制限を設けなかった。

 対してアップルCEOのスティーブ・ジョブズは、「オープン」にしても品質は向上しない、第三者の手が加わればインターフェースは醜くなり、魅力が失われると言い放った。

 結果はどうか。ソフト開発に関する縛りがきついアップルのほうが多数の人気アプリを生み出しているし、売り上げも多い。

 要するに「オープン」さは絶対的な強みにならない。そもそも消費者は、オープンさで製品を選ぶわけではない。

 グーグルの電子ブック市場参入で競争が増えるのはいい。だが半ば閉じているものを「完全にオープン」と宣伝するのは欺瞞だ。他社と差別化したいなら、競うべきは品ぞろえや価格、機能やレビューの充実だろう。

Slate.com特約

[2010年12月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中