最新記事

アメリカ経済

エコカー買い替え補助に騙されるな

古いポンコツ車を捨ててエコな新車を買えば補助金がもらえる──オバマの新政策は一見おいしそうだが落とし穴もある

2009年7月2日(木)16時41分
リンダ・スターン(本誌コラムニスト)

本当に得か 燃費のいいエコカーに買い替えれば環境にも懐にもやさしい?(クライスラーの電気自動車、ダッジ・サーキットEV) Yuri Gripas-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は6月24日、自動車の買い替え支援制度を盛り込んだ補正予算法案に署名した。この制度、環境には優しいかもしれないし、一部の自動車ディーラーは喜ぶだろう。だが消費者にとっては、期待したほどおいしい制度ではないかもしれない。

 7月末から2カ月の期限付きで実施されるこの制度では、燃費効率の悪い旧型の乗用車やトラックを燃費のいい新車に買い替える場合、3500ドルもしくは4500ドルが国から助成される。2月に成立した景気対策法のおかげで新車購入に際して払う税金も減額されているから、買い替えの絶好のチャンスが到来したようにも思える。

 だが実際には、この制度の恩恵を受けられるのは一部の消費者だけ。誰もが得をするわけではない。「がっかりする人も大勢出てくるだろう」と、自動車情報サイトのエドマンズ・ドット・コムで消費者向けアドバイスを担当するフィリップ・リードは言う。「宝くじに当たったと思うのは間違いだ」

 というのもこの制度の適用を受けるには細かい基準がいくつもあり、かなりの数のドライバーが対象外になりそうなのだ。助成の対象になるのは84年以降に製造されたガソリン1リットル当たりの走行距離が7.7キロ未満の車。それに1年以上同じ名義で登録され、保険に加入していなければならない。

 この基準に当てはまる車を手放して新しい車に買い替える場合、燃費の改善幅によって3500ドルもしくは4500ドルがディーラーから払い戻される。払い戻し分の金を政府から受け取るにあたって、ディーラーは古い車を廃車にしなければならない。燃費の悪い旧型車が再び路上を走るようでは意味がないからだ。

 助成金の上限は4500ドルと定められている。中古車として販売することができない以上、持ち込まれた車にディーラーが下取り料金を払うことはないだろう。つまり、手持ちの車が4500ドル以上で売れそうな人がこの制度を利用すれば損をすることになる。

中古車屋に売るほうが得かも

 新制度にいち早く反応したのは、インターネットで暗躍する詐欺師たちだった。偽のウェブサイトを立ち上げて「助成を受けるためにはサイト上で登録が必要」と称し、登録料をせしめたり銀行の口座番号などの個人情報を集めたりしたのだ。もちろんこれは真っ赤な嘘。古い車をディーラーに持ち込むだけで制度の適用は受けられる。

 手持ちの車の状態がいいなら、今回の制度を使わないという選択肢もある。普通に中古車ディーラーに売り、その金を元手に別の車を買えばいいからだ。最も経済的なのは、燃費のいい中古車に買い替えることかもしれないとリードは語る。

 もし新車に買い替えるなら、いつも以上に本気で最安値を探らなければならない。制度のスタートを前に、自動車販売店はすでに買い替え希望の客が詰めかけているという。助成金の話を持ち出すばかりで価格交渉には消極的なディーラーもいるかもしれない。

 お買い得価格で新車を手に入れるには、車種を決めてから複数のディーラーに(口頭ではなく)電子メールで見積もりを出させることだ。価格交渉が終わるまで、助成対象の買い替えであることは黙っておくほうがいいとリードは言う。

買い替える前にすべきこと

 では、この制度でいちばん恩恵を得られるのはどんな消費者なのだろう。該当するのはこれまで旧型の大きな車を乗り回してきたが、そろそろハイブリッド車に乗り換えようと思っているようなタイプの人かもしれない。

 財務ソフト大手のインテュイットで税務申告用ソフト「ターボタックス」部門の副社長を務めるボブ・ミーガンによれば、そうしたタイプの人は3重に得をするという。買い替え助成金と新車購入にかかる税金の減免に加え、特定のハイブリッド車を買うと購入額の一部が税金から控除される制度もあるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中